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道にできる扇型の話
くだらないことなのだけれども。
苦手なものがいくつかある。納豆、狭いところ、脈絡のない笑い、声の大きな人…私は自身が比較的寛容であると認識しているが、それでも受け入れられないものはある。
そんな中でも、道に溜まっている集団は特に苦手なものだ。例えば、大人数での飲み会が終わった後、二次会に行くの行かないのでグダグダしながら、なんの臆面もなく道を塞いでいる人たちを見ているとひどく気が滅入ってしまう。そこを通らなければならない時は尚更だ。気を利かせて「人通りまーす」と大声を張り上げる人(だいたいが酔っ払っている)がいることもあるが、それなら最初から店の中であらかじめ決めておくなり、邪魔にならないところで溜まるなりしていてほしい。その刹那の正義で道を塞いでいる重罪をチャラにしようとするばかりでなく、さらにその正義が執行されたことで悦に浸っている姿を見ると反吐が出てしょうがない。
パリでそういった集団を一番よく見かける場所は、学校の前だ。どうしていつも学校の前にはあんなにも人が群れているのか、不思議でならない。タバコを咥えたり、ただおしゃべりしたり、過ごし方は人それぞれだが、どの学校の前でも、必ずと言っていいほど、学校の門を中心、門と道の端までの距離を半径とする扇型が描かれる。気の利かない若い子たちの間をどうにかすり抜けようとするが、だいたい誰かしらにぶつかる。向こうは気にしない。だから余計に腹が立つ。
先程「必ずと言っていいほど、〜」と記載したが、それはさすがに言い過ぎてしまった。毎度毎度人が溢れかえっているわけではない。ただ、どういうわけか、学校の前には必ず誰かしらが、学校の門を中心、門と道の端までの距離を半径とする扇型の中にいる。その中に収まる人が先生であることもよくある。ふたりくらいの先生が、ひとりはタバコを片手に、もうひとりはコーヒーの入ったマグカップを両手で持ち、あまり愉快ではなさそうな顔であれこれ話し込んでいるのだ。
家から100mくらいのところに学校がある。パリに数多あるビジネススクールのひとつだが、どうやらパッとしない学校らしい。今までその学校のことを知っているフランス人に会ったためしがないのだ。
パッとしない学校ゆえに、生徒もなんだかパッとしない。扇形を形成する生徒たちは、私にはどこか幼く、そして少々間抜けに見える。フランスの大学に通っていたことがあるが、そこの生徒はもう少し大人びていて、かつ賢そうだったから、余計にその幼さと間抜けさが強調されているのだろうか。
今朝、仕事に向かう際、その学校の前を通った。電話をかけながら歩いていた私は、学校の門の前の扇形の中に4人のパッとしない男の子たちがいるのを見て、車道に出て足早に歩いた。
すると、その4人のうちのひとりが、私の方にわざわざ乗り出して、
「ファッションウィークにでも行くの?」
とニヤニヤしながら声をかけてきた。その日の私は、モスグリーンのウールコート、黒のタートルネック、赤いマフラー、グレーのパンツ、そしてピンクのスニーカーといういでたちだった。そんないでたちの私は、もちろんその間抜けなツラを下げた白人の男の子を華麗に無視して立ち去った。
だから嫌いなんだ…電話越しの相手に声ではそのイライラを悟られないようにしながらも、プリプリと歩くその姿に嫌悪感が滲み出ていたはずだ、きっと。
「おしゃれだったから、ついつい声をかけたくなったんじゃない?別に悪気はなかったんだと思うよ」
そういう人もいるだろう。確かに、間抜けヅラの彼に悪気なんて微塵もなかったかもしれない。彼はただ、私のピンクのAir Force 1を見て、パブロフの犬よろしく条件反射的におしゃれだと思い、それを表現する言葉を、彼の貧弱な語彙の中から必死に探した結果、「ファッションウィーク」という単語を偶然にも見つけ、それを何の考えもなく口にしただけで、そこには悪意のかけらもなかった…とも考えられるだろう。
だがしかし!私は彼の行為をどうしても許すことができない。それは彼の間抜けヅラや知性の欠如した言葉、そして誰彼構わず声をかけるデリカシーのなさに加え、彼がその発言を、学校前に形成される扇型の中からした、ということが理由なのだ。それは納豆や、狭いところや、脈絡のない笑いや、声の大きな人などと同様に、私の中ではどう頑張っても許容できないものに区分されているのだから。
それに、ファッションウィークは1週間以上前に終了している。きっと仕入れたてホヤホヤの言葉だったのだろう。馬鹿の一つ覚えもたいがいにしてほしい。
いずれにしても…
まぁ、いいや。気持ちの赴くままにあれこれ書いていたら、何だかどうでもよくなってきた。そうですよ、ファッションウィークですよー、何なら今回のファッションウィークでストリートスナップ撮られちゃいましたよー。
やーい、やーい!悔しかったらてめーもめかしこんでスナップ撮られてみろよバーロー!
という、くだらないことでした。おしまい。
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