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外部からのインスピレーション
5週間におよぶパリ出張があと1週間弱で終わろうとしている。私は今ミラノにいて、ニッチフレグランスの展示会“Esxence”を偵察してきたところだ。展示会を見て思ったことについてはまた別途書くことにするが、展示会というのは、どうであれ毎度なんらかの発見があるものだと感じた。
今回の出張は、çanomaのためのクリエーションにももちろん取り組んだが、加えて他のブランドの香り制作もあった。今抱えている案件が4つ。気づけば結構な数になっている。
あまり公にはしていないが(逆に隠しているつもりもないが)、リクエストがあれば他ブランドの香り制作を請け負っている。昨年末にローンチされたT.T (Taiga Takahashi)のお香の香り制作も調香師Jean-Michel Duriezと私が担当したし、今年中にローンチされるものもいくつか控えている。
今後もこういった案件が増えてくればいいなと思う。パリに行く理由も増えてくるし、他ブランドのクリエーションが私にもいいフィードバックを与えているようにも感じているのだ。
ところで、香り制作を依頼してくる人は、大きく分けて4つのタイプに分けられるように感じている。
それは「ディレクションがある人・ない人」と「コメントが多い人・少ない人」の掛け合わせで分けることができる。
前者の「ディレクション」というのは、「こういう香りを作ってほしい」という明確な指示のことを指す。香りの細かい指定まであるパターンから、インスピレーションソースまで含めて全てこちらに任せてくれるケースまで様々ある。
後者の「コメント」というのは、試作に対しての修正依頼を指す。何度も修正を求めてくる人もいれば、一発OKという人もいる。
それぞれのケースによる“やりやすさ”に特に大きな差はない。それよりも取り組む相手の相性の方が重要である。
一番困るのが、わからないことを「わからない」と伝えてもらえないケースだ。例えば、もはや何を作っていいのかわからない時は、「何を作っていいのかわからない」と素直に言ってもらえる方が後々やりやすい。香り制作ははじめてという方ばかりだし、香りに対する解像度や知識も人によってまちまちなので、わからないことがあるのは当然なのだが、どの部分がわからないのか、私が把握できないというのが一番厄介なのだ。
結局具体的な案件にはならなかったが、一度「世界で戦える香りを作りたい」という“ディレクション”をもらったことがある。それが具体的に何かについて尋ねると、あれこれ言葉は返ってきたものの、どの言葉も“雲を掴む”ようなものだった。きっとその人も何をもってして「世界で戦える香り」としていたのか、わかっていなかったはずだ。そんな中でもしそれが案件として進んでいたら、きっと混迷を極めていたことだろう。
先程、“やりやすさ”に特に大きな差はない、と述べたが、やっていて楽しいかどうかには、若干の違いがある。
私はどちらかというと、ディレクションもコメントも、両方ともあるパターンにより面白さを見出す。完全に任せてくれるクリエーションももちろん面白いが、それだと普段私がçanomaとしてやっていることと大きな差がない。自分では思いつかない、あるいはあえてテーマとして選ばないインスピレーションソースから香り作りをする方が、よりやりがいを感じるし、コメントをもらえた方が、普段私が気づかない、あるいは気にしないところに目を(というか鼻を)向けることができるのだ。
これはまた別の話だが、コメントなしで一発OKが出ると、「え…本当にこれで大丈夫…?」と思ってしまう。もちろん私も自信を持って試作を出すものの、認識の齟齬があるのが当たり前だという前提にも立っている。そう簡単に完成するものでもないのもよくわかるので、それがサクッと決まると、嬉しい反面、不安にもなってしまうのだ。
昨年から他ブランドの香りを作りを少しずつ手がけるようになったが、その中で、そういう仕事に対して適性があることに気がついた。それは私にとって思いがけないことであった。私はこれまで、私の自由が完全に確保された中でのクリエーションにのみ自分の特性を見出していたからだ。それが意外にも、外部の想像力を借りながら香りを制作することが面白く思える上に、それをうまくこなしている自分がいることに気がついたのだ。
将来的に、çanomaを継続しつつ、そうやって様々なブランドの香り制作に携われるようになると、私も今以上に充実したクリエーションの日々を送ることができると思うし、çanomaにとってもいいフィードバックになるはずだ。そのためには、もう少しスタッフを増やして、私がやらなくてもいいことをうまく手放していく必要があると考えている。今はうまく想像できないが、案外それはそう遠くない未来かもしれない。
香りを作ることに関して、日本で完結させるのと、私を通してフランスの技術を借りるので、それぞれメリット・デメリットがある。何を大切にするかは依頼主次第だが、もし香りを作りたいと考えている方がいるのであれば、お気軽に相談いただければと思う。
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