![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/171620950/rectangle_large_type_2_fdb4b2b9994cda356ab35e585068fa64.jpg?width=1200)
RER Eの成長とともに
パリ到着翌日は昼前から夜8時過ぎまでしっかりとミーティングが入っていた。それでも、noteの記事のストックがあると気持ちがかなり楽だ。帰宅後にnoteの執筆が待っているという日々の状況がいかに負担かがよくわかる。もちろん、好きでやっていることではあるのだが。
2日目の朝は7時半ごろに家を出ることになった。まだ暗いパリの空、立ち並ぶ家々の少し上に痩せ細った月が眠そうに浮いていた。
9時の待ち合わせ場所までは電車で40分弱で到着するが、余裕をもって家を出たのには、遅刻の心配以外にもうひとつ理由があった。
Googleマップでルートを検索すると、9号線から7号線と乗り継ぐ経路のほかに、RER Eという電車に乗って行く方法が提示された。
RER E…あの忌まわしき電車…最後に乗ったのはいつのことだろう。
2015年9月に渡仏をした後、最初の3ヶ月はパリ郊外でルームシェアをしていた。パリから電車で30分ほど行き、さらにバスに乗ったところに位置したその場所は、小高い丘や森のある、のどかなヨーロッパの田舎そのものだった。今思うと素敵な場所だったが、当時は早くパリ市内に引っ越したくてしょうがなかった。
そこに住んでいた3ヶ月の間に、パリで大きなテロがあった。日本でも大きく報道されたもので、私の安否を確認する友人からの連絡が鳴り止まなかったことを、執筆しながらふと思い出した。
Émerainvilleという、パリから東に進んだところに位置するその小さな街の、私が住んでいた家に向かうには、ふたつの最寄駅があった。RER AのNoisy-Champsと、RER EのLes Yvris Noisy-le-Grandだ。前者の方が栄えているが駅から家までが遠い。後者は近いが、駅周辺は何もなく、電車の本数も少ない。夜はこの駅は怖くて使えなかった。
一度Les Yvris Noisy-le Grandから電車に乗ろうとした時、駅そのものが“お休み”だったことがあった。
駅が、お休み…日本だと考えられないだろう。日本から来て間もなかった私も、「駅がお休み、とは…?」となってしまった。はて、駅って日によって休むものだっけ…?いや、休まない、よね…?それがフランスだと、休んじゃうんですよ、奥さん!
その出来事以来、RER Eを使う機会はめっきり減ったものの、それでもパリから家に帰る時はたまに使うようにしていた。“きちんと動いている時に限っては”便利だったのだ。
ルームシェア生活が3ヶ月しか続かなかったのは、ルームメイトのフランス人の一風変わったおばさんのあれこれに耐えられなかったからだ。若いフランス人の女の子とラオス人のおじさんはとても優しかったので、残念だった。その後私はパリ16区に引っ越し、今でもパリに戻る時はそこに帰っている。
パリに引っ越してからは、RER Eに乗ることはなかった。ということは、9年ぶりの乗車となる。そんなわけで、久しぶりに乗りたかったものの、あまりちゃんと動いてくれないイメージのあるRER Eに乗るということは、それなりの“覚悟”と“準備”が必要だったので、家を早めに出たのだ。
この9年間、フランス語の喋れない語学学校生だった私が、小さいながらもフレグランスブランドのオーナーになったように、RER Eも大きく変わっていた。Saint Lasare駅が終点だったはずだが、今ではそこからNantarre-la-Folieというところまで線路が伸びていた。私は今の終点とSaint Lazare駅の間に位置するNeuilly-Porte Maillot駅から電車に乗った。
RER Eには似つかわしくない近代的で綺麗な駅だった。金属とガラスを中心としたシンプルな駅構内はどこか宇宙船を思わせるものだった。
電光掲示板が電車の到着を告げた。電車の来る方に目をやると、真っ直ぐ伸びたトンネルからは電車の正面に配置されたいくつかのライトだけが、暗闇の中の猫の目のように見えた。だんだん近づいてくる。結構なスピードだ。
プラットフォームに差し掛かり、その全貌が明らかになる。車体は私の知っているRER Eのオンボロのそれではなく、新型のピカピカのものだった。どこにもストリートアーティストによる落書きはない。
中は外以上に綺麗な印象だった。座席にはなんとUSBケーブルで充電ができるポートがついていた。
目的地のMagentaまではたったの2駅だったが、快適に過ごすことができた。RER Eじゃないみたいだった。
RER Eは確かに大きく変わった。路線も伸びたし駅も電車も見違えるように綺麗になった。
ただ、それだけではない。それに乗る私も、間違いなく大きく変わった。フランス語の喋れない、痩せぎすの若いアジア人は、あの頃よりかは幾分の自信と脂肪をつけて、9年ぶりにRER Eの車内に足を踏み入れたのだ。そしてその9年がいかに速く過ぎ去っていったかを、線路を駆け抜ける電車が暗示していた。
成長、と呼んでいいのだろうか。
きっと、呼んでいいのだろう。普段感じられることのないそれを、大きな変化を遂げたRER Eの電車の中で私は、しっかりと噛み締めていた。
【çanoma公式web】
【çanoma Instagram】
#サノマ #香水 #フレグランス #ニッチフレグランス #canoma #canoma_parfum #パリ
#フランス