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ランドセルである必要はないのだから

ひどく不思議な夢を見た。


舞台は私が通っていた高校のグラウンド。ただし、私はその時これから小学校に通う予定になっている。

なぜ小学校に行く際のカバンはランドセルじゃなければならないのだろう?

そんな疑問がふと浮かぶ。

手持ちのバッグをあれこれ検討してみる。

最近毎日使っているCornelian Taurusのバッグだと入る量が限られる上に手持ちになってしまう。小学校へはたくさんの教科書や道具を持っていく必要があるので、やはりそれなりに容量のあるバックパックがいいだろう。であれば、ポーターのレザーのバックパックが最適だ。別に小学校に何を持って行ったところで、きちんと授業を受けて宿題をして、悪いことをしなければ文句を言われることはないはず。よし、あのバックパックで通学することにしよう。

そういえばトイレに行きたいな。

グラウンドを斜に突っ切ったところにトイレがある。歩いて向かうと、入り口の前に長い行列ができている。

どうやら東大の服飾サークルの部室につながっているようだ。建物の入り口からまっすぐ細長い廊下が伸びていて、部室の扉の手前、向かって右側に男性用の小便器が4つ並んでいる。そこで用を足した4人は同時に、全く同じ機敏な動きで出口の方に向かっていく。

服飾サークルの入り口というのもあってか、ファッションに興味のありそうな学生がそこにはたくさんいた。そこでのトレンドは、シルクやビスコースなどの光沢のある素材にカラフルなプリントが施されたアイテムのようだ。Casablancaを着ている人が多い。

私の順番があと2ターンほどになったところで、それまで4人同時に便器に向かい、同時に立ち去っていたこのリズムが崩れだす。便器に向かうタイミングは同じなのだが、ひとりだけ早く終わる、といったことが見受けられるようになる。

私の前の組においても、ひとりだけが早く立ち去る。空いたのだから他の3人を待つ必要はないだろう、と思い、私はその空いた便器の前に立つ。するとそれまでどうにか保たれていた秩序は途端に大きく崩れ、皆バラバラに便器の前に立ち、そして立ち去るようになる。


ここで夢は終わった。


ね、不思議でしょ。


私はこのひとつの夢の中で、一応小学校から大学までを経験したことになる。ところどころ現実と重なる部分もある一方で、完全な創作もかなり混じっている。

この夢で一貫しているのは、既存の価値観やルールを無視している、ということだろう。小学校のランドセル、トイレの順番、もしかしたらグラウンドを突っ切るということも、それに該当していたのかもしれない。


特段積極的にルールから外れたいとは思わないし、今までの人生においてむしろ私はルールに対して従順な方だったと思う。どうして夢の中だとこんなにも私は自由なのだろう…


調香師とランチをしながら、とあるフレグランスブランドについて意見を交換していた。簡単に特定されかねないブランドなので詳細は割愛するが、私たちの意見は、どの香りもとてもよくできている一方で、既視感は否めない、というものだった。

「これまで、香水業界を大きく変えてきた香りはいくつかある」

調香師はいう。

「それらの特徴というのは、結局のところオーバードーズなんだ。つまり、それまであまり大量に用いられることのなかった香料を過剰に入れる、ということだ。そして、そのオーバードーズされる香料というのは、得てして嫌な香りなんだよ。だから、香水の歴史を変える香りを作ろうと思ったら、そう簡単には受け入れられない香りを世に出すことに対して、ブランドのディレクターやマーケティングチームが積極的であることが求められるんだ。もちろん、それをただの悪臭のまま出すのではなく、調香師がきちんとその香料を手懐けることも重要だけどね。そうしないと、ただオーバードーズされただけの、星の数ほどあるニッチフレグランスと同じになってしまうから」

調香師は続ける。

「その上で、ブランドらしさということは絶対に忘れてはならない。もしこれをçanomaでやろうとするならば、『çanomaとは何か?』という問いから出発することがとても重要なんだ。それをひとつの香料で表し、オーバードーズした上で、その他の香料で上手に料理をする。そこには大きなリスクも伴うが、やってみる価値はあると思う」


これまでçanomaは、新しい香りを世に出すことができていたと思う。調香師と細かい議論をしながら、既存のフレグランスとは違う提案をし続けていたはずだ。

ただそれでも、もしかしたらどこか“いい子ちゃん”していたところがあるかもしれない。私はどこか。、“きちんと作る”ということに拘泥していたような気がする。


これまで十分“いい子ちゃん”をしてきたのだから、そろそろ私は、もっと思い切った香りを作ってもいいのかもしれない。もちろんそれは、ただのオーバードーズではなく、「çanomaとは何か?」という問いに対する答えとしてのルールからの逸脱が求められるのだが、少なくともそれがどんなものであるかについて、探し出すべきタイミングにきているのだろう。


小学校に行くのに、ランドセルである必要はないのだから。


【çanoma公式web】

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