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恐竜がいるよ

7年ぶりに会う友人が1時間半の遅刻をすることはすでに“織り込み済み”だった。10時の約束に、彼女が登場したのは11時半だった。しかも、知らない誰かを連れて。


語学学校で知り合ったエクアドル人のイサベルから連絡があったのは数週間前のことだった。しばらくパリ近郊にいるから、予定が合えばパリで会いたい、とのことだった。

イサベルとどうやって仲良くなったのかはよく覚えていない。同じクラスになったわけでもないし、共通の友人がたくさんいるわけでもない。何かのサークル活動で一緒になったのかもしれないが、その辺りの記憶が曖昧だ。

そして仲良くなった、とはいっても、一度だけふたりで遊びに行ったくらいなものだ。どういう流れだったかはすっかり忘れてしまったが、一緒にエッフェル塔を登った。

結局遊んだのはその一度きりで、イサベルはその数日後にエクアドルに帰った。そもそもフランスも短期の語学留学のために来ていただけだったようだ。


土曜日に会うことだけを決めておいて、あとは直前になって決めよう、ということになった。数日前に連絡をすると、土曜日の朝8時半にバルセロナから飛行機で帰ってくるとのことだった。だとするとランチだと少し早い。私はパリ中心にあるとあるカフェに10時に待ち合わせをしよう、と提案した。そして、空港を出る際に連絡して、と付け加えた。


土曜日、彼女から連絡が来たのは、待ち合わせ時刻の10時を少し回った頃だった。今から空港を出るけど、もうひとりエクアドル人の女の子が一緒でも大丈夫か?という内容だった。バルセロナからパリに戻る飛行機で知り合った子で、どうやらフランスの電車の乗り方も分からないから助けてあげたらしい。

特に問題ない、と返した私は、まだ家から出ていなかった。最初から時間通りにスムーズに来るなんて思っていなかった。南米系の人との待ち合わせは大体いつもこうなることを、6年のパリ生活で私はしっかりと学んでいた。

いずれにしても、この調子だと11時を回ることはほぼ確実だろう。変にランチの時間にかぶると混んでしまうから、少し早めに(とはいっても当初の待ち合わせ時間からはだいぶ遅いのだが)行って、3人分の席を確保しておこうと思った。

結局、2つのカフェにフラれて、3つ目のカフェで席を確保できた。11時15分くらいだっただろうか。そこから15分遅れてイサベルともうひとりのエクアドル人の女の子が到着した。

その女の子にスペイン語で自己紹介をされた。どうやら英語もフランス語も全くダメらしい。彼女はパリ滞在中、スペイン語で乗り越えるつもりなのだろうか…?


イサベルの近況を聞くと、今彼女はエクアドルでツアーガイドの仕事をしているらしい。母語のスペイン語に加えて、英語とフランス語ができるし、彼女からは聡明な印象を受けるので、きっととても有能なツアーガイドなのだろう。


「東京での生活はどう?パリと東京、どちらが生活しやすい?」

まだ足を踏み入れたことのない日本には興味津々で、あれこれの質問をされた。

「やっぱり東京の方が住みやすいかな。パリよりもずっと大きな都市だから、アクティビティの幅も広いしね」

そう答えると、彼女は「パリよりも大きいの?」とひどく驚いた。彼女にはそんな場所はうまく想像できなかったらしい。「その上きっと、パリよりも近代的なんでしょうね」彼女は付け加えた。

そうだ、と回答すると、「それじゃ、もしエクアドルにきたら、ユータにとってはそれは『過去への旅行』になっちゃうね」といった。

「恐竜がいるよ、エクアドルには」

そして彼女はいたずらにそう付け加えた。

なかなか素敵な冗談だった。


ふたりとお別れをしたあと(イサベルには「次会うのは東京かキトかどちらかでだね」と告げた)、私は少し真剣に、エクアドル旅行について考えてみた。

日本からだと遠いが、パリからだとトランジット込みで12時間ほどでいける。空港まではイサベルが迎えに来てくれるし、彼女がガイドまで請け負ってくれる。

その上、恐竜がいるのだ。きっとそこは素敵なところだろう。


エクアドル、か…

今まで考えてもみなかった旅行先が、思いがけない出会いからもたらされる。それはとても素敵なこと。

もちろん、直接的には仕事には繋がらないだろう。ただ、幸運にも恐竜に会えたら、それをテーマに新しい香りが作れるはず。


そのころのマコンドは、先史時代の怪獣の卵のようにすべすべした、白く大きな石がごろごろしている瀬を澄んだ水がいきおいよく落ちていく川のほとりに、竹と泥づくりの家が二十軒ほど建っているだけの小さな村だった。

『百年の孤独』ガルシア・マルケス 鼓直訳

恐竜に会えるのは、いつになるのかな…


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