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「10-20」という香り

先週末、「香水の充填が完了し、商品を出荷しました」と充填工場から連絡があった。

今日月曜に、契約先の倉庫から「香水の入荷がありました」とメッセージが届いた。

よかった…


新宿伊勢丹「サロン ド パルファン」の開幕2週間前にようやく商品が届いた。ここに至るまで、幾つのトラブルがあっただろうか。あんなことや、こんなこと…もう思い出したくもない。いずれにしても、もう過ぎたことだから忘れてしまおう。

諸々のことをかなり余裕をもたせたスケジュールで動かしていたつもりなのに、結局ギリギリになってしまう。これだからモノづくりは大変だ。間に合ったからよかったけど。

いつかもう少し楽になる日はくるのかなぁ…


今回は新作を3つ出す。といっても、うちふたつは昨年の「サロン ド パルファン」で限定ボトルとして出した「7-18 浮舟」と「8-17 松風」を通常ボトルに入れたものなので、ちゃんとした意味での新作は残りのひとつ。


「10-20 蜻蛉」だ。


テーマは、「ほうじ茶」。調香師Jean-Michel Duriezとともに、複数のほうじ茶の香りを試しながら作り上げた。

調べてみると、ほうじ茶を“ほうじ茶たらしめる”香り成分があるのだが、残念ながらそれを含有している香料は存在しない。

そこで、ほうじ茶の香りが持っているさまざまな側面を観察し、各側面に香料やアコードをあてがい、それらを再構成することでほうじ茶の香りに近づけていく、という、香り制作におけるクラシックなアプローチをとることにした。


この香水には3つの大きな側面がある。

ひとつ目は茶葉のフローラル。ふたつ目は“旨み”を感じるような磯っぽさ。最後はほんのりパウダリーなグルマン。もちろん、他にも細かい要素はたくさんあるが、これらをうまく組み合わせることで、私たちはほうじ茶の香りを再現することを試みた。

結果として、出来上がったものが誰にとってもほうじ茶を想起させるものか、と問われるとかなりあやしい。お茶らしさが全面に出ている、いわゆる「お茶系香水」とはかけ離れているだろう。

ただ、私たちはこのプロセスを経て、何か新しいものを作り出したことを感じた。それは、本来であれば“そうあるべき”なのかもしれれないが、必ずしも全てのクリエーションにあるものではない。

だから、ほうじ茶としての再現度の高さではなく、ひとつの新たな香りの提案として評価してもらえると嬉しい。なんなら、ほうじ茶が出発点になっていることすら忘れてもらって構わない。


ここでは詳しい説明を避けるが、çanomaの全ての香水には、それぞれ源氏香之図がひとつあてがわれている。そしてその源氏香之図の名前は、あてがわれた香水のインスピレーションソースと多かれ少なかれ関連がある。

今回、「10-20」には「蜻蛉」という源氏香之図を授けた。

理由は、ナイショ。つまり、「ほうじ茶」以上のこの香水のインスピレーションも、ナイショ。

「蜻蛉」という言葉に込められたこの香水のテーマは、あまりにも個人的なものでありすぎる。私はそれを、今のところあまり公にしたいと思えない。

もちろん、いつの日かそれについて語ることになるだろう。ただ今は、そっとしておいてほしいのだ。


「10-20 蜻蛉」のインスピレーションソースがほうじ茶であること程度にしか語らないと決めた時、私はふと、昨今のフレグランスがあまりにも雄弁に語られすぎていることに思い至った。それは比較的“語らない方”のブランドであるçanomaにおいてもそうであるように感じている。

フレグランスは抽象度が高い。だから売る側はどうしても説明的になってしまうし、それに伴い買う側も言葉やイメージを求めてしまう。

それがフレグランスの適切な鑑賞の妨げになると思い、私はより抽象度の高いまま香りに出会えるようにçanomaをしたつもりだった。

それでも、まだやはり私は語りすぎていたようだ。その理由はきっと、まだ香りだけで語り尽くせるほどにクリエーションのレベルが高くなかったからだろう。


「10-20 蜻蛉」を抽象度の高いまま世に送り出すことができたのは、あるいはそれがもつ香りの力によるところが大きいのかもしれない。それだけ私は、この香りに希望を見出している。


どうやら私はまたいつものように語りすぎてしまっているようだ。このあたりで口をつぐもう。

新宿伊勢丹「サロン ド パルファン」で先行発売、全国発売は10月25日から順次。

ぜひ香りを試してみてね。私がここまで書いたことは、一度全部忘れて。


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