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伊勢に2度行く(後編)

前回からの続き)

22時21分

伊勢から名古屋に戻る電車の中、『バズる「死にたい」』(古田雄介)読了。数日前に違う本が欲しくて訪れた本屋でたまたま目に入り購入した一冊。自殺願望の書き込みを類型化し、それぞれのケースを見ていきながら、「自殺願望の書き込みは、公序良俗に反するのか」(同書)という問いについて答えを出そうとする。

誰もが「死にたい」という気持ちを持っている、とずっと思っていた。それは単純に、私自身がそうだからだ。私のその気持ちは、実際に自殺願望をネット上で吐露したり、あるいは本当に自殺する人に比べれば幾分希薄ではあるものの、“一般的な水準”よりかは若干強めであるらしい。そのことに気がついたのは、大人になってからのことだった。

みんなそんな気持ちを多かれ少なかれ持ちながら、なんとか頑張って生きていて、それが大きい人が一線を超えてしまう、と信じて疑わなかった。

「そうか、みんな死にたいって思わないんだ」と気づいた時の驚きは、小学生の頃、“一般的な人”の耳垢が乾いていると知った時に感じたものと同じような手触りだった。それは私が“一般的”からあぶれていることを知らされた、数少ない体験のひとつだったのだ。

私のケースは、希死念慮はある一方、「生きたい」という気持ちがそれ以上に強く、基本的には後者が先行しているものの、ちょっとしたことでバランスが崩れると前者が台頭してくる、ということのように本書を読みながら分析した。本書の中で、

「長い希死念慮が帰結したケース」は、「死にたい」思いが強いのはもちろんのこと、「生きたい」感情が希薄に感じることが多かった。

古田雄介『バズる「死にたい」』

という一文があったが、私の場合は「生きたい」感情の色濃さから、このケースに近いもののしっかり当てはまるわけではなさそうだ。このようにして私は自殺を免れてきたのだろう。


22時43分

名古屋駅到着。一応東京に帰るルートを検索してみるが、その日のうちに帰れる方法は当然ながら残っていない。いずれにしても、名古屋のホテルをもう予約してしまっていたので東京に帰るつもりはなかったのだが。

予約していたビジネスホテルまでは歩いて10分ちょっと。その途中にあるファミリーマートで着替え用のTシャツを購入した。出張の際は予備の着替えを持っていく習慣があるので、そのTシャツなしでも明日の着替えはあったのだが、ホテル到着後に夜ご飯を食べる際着替えてからいきたいと思った。それは少しでも私の惨めな気持ちを和らげるためでもあった。

オーバーサイズのTシャツは売り切れで、私はレギュラーフィットのMサイズを買う。ここ1年ほどでひどく太った私、本当にMサイズで大丈夫かなぁ…


22時55分

ビジネスホテルに到着。建物も内装もかなり古い。ロビーの本棚には漫画がびっしりと並んでいた。

チェックイン時に、「朝食バイキングが200円でつけられる」といわれた。思わず「200円ですか?」と聞き返したものの、まだ何時に名古屋を出るか決めていなかったので保留にした。

部屋はいわゆる昔ながらのビジネスホテルという感じだった。とりあえず寝泊まりするのに不満はない。私は買ってきたファミリーマートの白いTシャツに着替えた。Mサイズでバッチリだった。

電車の中で、深夜2時まで営業している近くの居酒屋をチェックしていた。ラーメンとか牛丼で手軽に済ませたい気分ではなかったので、とりあえずその居酒屋を目指した。


23時17分

コビトカバ」というその居酒屋の看板には「酒ドコロ」の文字があった。お酒を全く飲まない私は、こういうお店に入る時にいつも気が引ける。迷ったものの、外から見るとカウンター席が空いていたし、中の雰囲気はよさそうだったので、思い切って入ってみることにした。

店の奥にいた4人組の声が大きいのがとても気になった。私は酔っ払って大声で喋っているグループがとても苦手である。注文の後、お店の人に嫌がられるのは百も承知で、私はカナル式のイヤホンで耳を塞いだ。

ブリの刺身、フライドポテト、手羽先2種、ホルモンの煮込み、〆に白ごはんと鶏のスープ。どれも思いがけず美味しかった。どの料理からも“きちんと”調理されている印象を受けた。白手羽先とホルモンの煮込みが特によかった。

私は少しずつ、私を取り戻し始めた。


8月23日 晴れ

0時25分

炭酸水を買ってホテルに戻った。軽くシャワーを浴びて、noteをアップした(「伊勢に2度行く(前編)」の記事だ)。翌日の新幹線の予約を取ろうとするも、その日に限ってシステムメンテナンスの関係で予約サイトにアクセスできなかった。ことごとくついてない。


6時03分

6時に目覚ましをセットしていても、その時間に起きれたためしがない。毎回3から5分おきに7つほどのアラームをセットするが、その中のどれかでようやく起きる。

何時ごろ就寝したのかはよく覚えていないが、昨晩のうちに荷物をまとめていたので、あとは朝ご飯を食べるだけだった。とりあえず10時の東京での予定に間に合うスケジュールで動けばよかった。

昨晩のうちに新幹線の予約ができていなかったので、オンラインサイトで予約をしようと思い見てみると、なんと新幹線の遅延が予告されている。遅れは15分くらいなので大したことはなかったが、とりあえずとことんついてない。

当初予定していたのよりも少し早い新幹線を予約し、チェックアウトの準備もして朝食会場に向かった。


6時37分

200円の朝食バイキングだったので、そこまで期待はしていなかったが、200円以上の価値はあったと思う。やはりモーニングカルチャーのある名古屋ならではなのだろうか。


7時02分

ホテルから新幹線の駅まではLUUP(電動キックボード)で移動した。予約した定刻7時35分の新幹線は7時50分ごろに発車の予定だったが、念の為定刻に発車することを見越したスケジュールで動くことにした。LUUPの返却ポートが駅から少し離れたところにあったため、迷子になることも織り込んでの早めの出発だった。


7時20分

名古屋駅到着。新幹線の遅延は全くアナウンスされていなかった。

あれれ。


7時35分

定刻通り新幹線が発車した。

実は電車がひどく遅れて車内で過ごす時間が長引く可能性を鑑みて、より快適に過ごすために久しぶりにグリーン車を予約していた。

車内販売かなくなった東海道新幹線ではあるが、グリーン車は席から飲食物の注文ができる。通称「シンカンセンスゴイカタイアイス」(新幹線車内で買えた、極度に冷えていて大変硬いアイス)もメニューの中に入っている。

発車直後に期間限定のメロン味のアイスとホットコーヒーを注文。楽しみ。


7時48分

アイスとコーヒーが到着。美味しい。


9時05分

定刻通り品川駅に到着。30分ほど寝ていたようだ。

新幹線を品川駅で降りるのは久しぶりだ。いつも東京駅で降りる。

家からは東京駅の方が若干アクセスがいいというのもあるが、品川駅の新幹線乗り場の、あの無機質な感じが苦手というのも、品川駅を避けるひとつの小さな理由かもしれない。


このあと私は無事に10時からの予定に間に合い、8月23日を何事もなく終えた。


今となっては、忘れ物をして伊勢に戻らなければならなかったのは、私のおっちょこちょいからではなく、伊勢の神々が私にもう一度会いたがったからではないか、とさえ思っている。

きっとそうなのだ。そういうことにしておこう。


思いがけず長編となってしまったが、「伊勢に2度行く」はこれにて終了。正直忘れ物に気がついたときはどうしようかと思ったが、3日分の記事になったと思えば安いものかな。

ということで、皆様も忘れ物には何卒ご注意ください。


ちゃんとお財布持ったー?ハンカチはある?今日雨降るかもしれないってよー。


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