ニッチの谷
というタイトルを掲げたものの、この内容についてうまく書ける自信はない。ただ、前々から考えていたことではあり、自分の中に書きたいことに関するぼんやりとしたイメージはある。
書きながらクリアになるのであれば良いし、仮にうまく表現できなくても、なんとなく私が考えていることが伝わってくれれば、今回に関してはそれでよしとしたい。
とりあえず始めてみよう。
そもそも、こと日本において、香水はニッチなプロダクトだ。誰しもが使うプロダクトではないし、使っているだけで、「お洒落」あるいは「気取っている」という評価をされることがある。
ただでさえニッチなプロダクトなのだから、その中での「ニッチフレグランス」のニッチ具合はなかなかなものだろう。
ちなみに、ニッチフレグランスについては下記の記事の前半部分で触れているので参考にしていただきたい。
ニッチフレグランスマーケットは、グローバルで年率15%くらいで成長しているそうだが、昨今はグローバルで年間300ほどの新しいブランドが生まれているらしい。既存のニッチフレグランスブランド数が2,000ほどと言われているので、数だけで見るとマーケットの成長とブランド数の増加は同程度のスピードだと言える。
一方で実際は、ニッチフレグランスマーケットの成長は、大手に買収されたニッチフレグランスブランドが、その資本力をてこに販売を伸ばすことによってなされているという印象を受ける。つまり、それ以外の“本当の”ニッチフレグランスブランドにとっては、年々競争が激化していっていることになる。
昨今のニッチフレグランスブランドに対する私の不満は以前書いたのでここでは詳しくは書かないが、私の不満の背景には、この激化するマーケット環境があることは否定できない。
競争が激化することで、ニッチなブランドがその中で“目立つ”ためにさらにニッチなコンセプトやプロダクトを作り出し、マニアックなニッチファンは喜ぶが、そうでない消費者を置いてけぼりにする、という、負のスパイラルが発生しているように思われるのだ。
マニアックなプロダクトやコンテンツでよくある「一見さんお断り」的な雰囲気を、マニアの側からもクリエーターの側からも日々感じている。
こういったマニアと一般消費者の溝が広がっていくばかりのプロダクトは、香水に限らず実際多いと思う。ニッチフレグランスが本当の意味で市民権を得ていくためには、この溝を少しずつ埋めていく必要があるように思っている。これはクリエーターとしての意見だ。
日本において、この溝をうまく埋めることに成功したプロダクトがある。それは、メガネだ。
実は香水が好きになったのと同時期に、メガネにも強い興味を持つようになった。きっかけはAlain Mikliというフランスのブランドだった。ヒンジの構造などのテクニカルな部分と、顔に乗せたときのファッション性をいかに両立させるか、という点で、非常に面白いプロダクトだと思ったのだ。
(香水も調香テクニックと香りが与える印象をどのように両立させるか、という点で近いものがあるのかもしれない)
10年ちょっと前だったかと思うが、その当時は今ほどニッチなメガネブランドが市民権を得ていなかったように思う。オリバーピープルズすらあまり知られていなかったのではないか。
しかし今日では、ブランドの路面店もかなり増えた。また、街でよくEyevan 7285という、かなりニッチなブランドのメガネを掛けている人をよく見かけるようになった。私自身もとても好きなブランドだ。
(ちなみに私もブランドがリリースされたタイミングで買っている)
もちろん、そもそも矯正器具という使命のあるメガネと、必要性という点においてはほぼ皆無の香水を単純比較することは出来ないが、ここ10年ほどのニッチなメガネの日本における地位の向上には、目を見張るものがあるように思う。ニッチフレグランスマーケットも、メガネマーケットをロールモデルに出来たらいいな、と考えている。
ニッチなメガネブランドが本当の意味で市民権を得るようになった背景には、間違いなく鯖江の存在がある。日本でハイクオリティのプロダクトが作られていることが徐々に知られたことは、一般消費者がメガネというプロダクトに興味関心を持つ1つのきっかけになっているだろう。また、その技術によって、面白いプロダクトが日本から生まれてきていることも、このニッチなメガネブランドの台頭に無関係ではないだろう。
さらに、面白い販売店の存在も忘れてはならない。なんと言っても、恵比寿のContinuerと吉祥寺のPark side roomは、外せないお店だ。日本にいるときは本当にお世話になった。
私がパリでブランドを作っていることを、“Made in France”のラベルのためだと思っている方もいるかもしれないが、それは間違っている。私がパリを拠点にしている理由は、単純に香水が作りやすいからだ。香料メーカーのアトリエや、ボトルやパッケージの業者等へのアクセスが大変良い。だから、私のブランド名には、他のブランドがよくしているようなParisの文字は入らない。
日本には残念ながら、香水に関してはメガネの鯖江におけるような素晴らしい技術を持った地域はない。よって、私は今後もパリから発信し続けなければならないが、それでも、私のブランドが、日本人の感性により、マニアと一般消費者の溝を少しでも埋める役割が担えたら良いと思う。真剣にそう思う。
私が言いたいことがうまく伝わっていたらいいのだが…伝わってなかったらごめんなさい。またうまく言葉にできるようになった時に書き直します。
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