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手帳の文字
9日間に及ぶ長い長い出張の最終日、私は福岡空港付近で車を借りて、友達を迎えに久留米方面に向かった。
7時半にホテルを出て、8時前に空港近くの駐車場に車を取りに行く予定だったが、思いの外道が渋滞していて、到着が8時ちょっと過ぎになってしまった。
久留米での待ち合わせは9時だった。Googleマップ上では高速で40分、下道でも50分ちょっとだったのでまだぎりぎり間に合う時間ではあった。エンジンを入れてナビを入力、あまり余裕がないのでそのまま出発した。
ふとナビの到着予定時刻に目をやると、なんと10時半あたりを示している。どうやら高速道路でひどい渋滞が発生しているようだ。ナビを下道に切り替えるも、そちらはそちらで渋滞しているようで、あまり時間は変わらない。Googleマップとの“合わせ技”で、渋滞を迂回する裏道を探したりしながら、なんとか予定から30分遅れで到着することができた。
友人をピックアップ後、太宰府天満宮まで向かいお参り、友人とはそこでお別れをして、ひとりまた福岡空港へと向かった。午後1時過ぎに空港に到着、2時半のフライト前に、カツカレーを食べ、ポテトチップス3袋(「カルビーポテトチップス 九州しょうゆ味」2袋と「カルビー堅あげポテト 九州しょうゆ」を1袋)を購入する余裕があった。
2時間弱のフライトは想定通り爆睡。ところどころでぼんやりと目を覚ました記憶があるものの、いつ離陸しいつ着陸したか、よくわからないままフライトが終わった。「結局この飛行機飛んでないよ」と言われても信じてしまうくらいだった。
羽田空港から新宿へとリムジンバスで向かった。道は夕方のひどく混んでいる山手トンネル内でノロノロ運転となった。閉所恐怖症のきらいがある私は、だんだん気持ち悪くなってしまった。1時間以上かかって新宿に到着した時にはもう疲労困憊でその場にしばらく立ち尽くした。本当はそのあと予定があったのだが、さすがにこの状態では行けそうもなく、泣く泣くキャンセルすることにした。
家に帰る気力もなく、とりあえず近くのハンバーガー屋に入った。ひどくお腹が減っていた上に、とにかくジャンキーなものを口にしたかった。そのお店で最大限に高カロリーであろうメニューを注文し、それをペロリと平らげたところでようやく私の長い長い出張は終わりを告げたような気がした。
ハンバーガー屋のテーブルで、ぼんやりした頭が思い出していたことは、「手帳」だった。
福岡で会っていた友人は、高校の頃からの知り合いだった。彼女とはここ数年は毎年1度は会うようにお互い心がけていて、一応なんとかそれを達成できている。今年も駆け込みだが無事に会うことができた。
お互い忙しく、午前中の3時間しか確保できない。カフェで話すには長すぎ、遠出するには短すぎる。そんなわけで、手頃な場所、ということで太宰府天満宮に行くことになった。
ハイシーズンでもない太宰府天満宮は、多くの訪日観光客で賑わっていた。今まで何度か梅の季節も含めて訪れたことがあるが、今日が一番人が多かったような気がする。
とりあえず参拝を済ませて、梅ヶ枝餅をいくつか食べ比べた後、参道にあるスターバックスで休憩することにした。
席についてほっと一息の後、彼女は最近の忙しさについて口火を切った。子育て、仕事、学校関連のあれこれで、気がついたら予定が埋まってしまっているらしい。
「こんな感じなんだよ」
彼女は薄いロルバーン(だったと思う)の手帳に書き込まれたスケジュールを私に見せた。各日のマスには何かしらの文字が記されていた。
私はその、マスに対して些か小さく、端正ながらもどこか“なげやり”なところのある文字の、その造形に目がいった。
母の書く文字にどこか似ているところがあった。
母も毎年薄い手帳を買って、それに几帳面に予定を書き込んでいた。どこのブランドかは忘れたが、タータンチェックの表紙のものを好んで購入していた。
病床の母が最後に手帳に書き込んでいたのは、その時読んでいた小説の登場人物の相関関係だった。薬の影響で、端正だった字はかなり崩れていたが、それでもなんとか判読することができた。
私は友人に、母のことを思い出したことは言わずにおいた。なんだか、言わない方がいいような気がしたのだ。
私は手帳に予定を書き込むのがすこぶる苦手だ。思い立って手帳を購入したことも幾度かはあるが、だいたい2月の途中から真っ新なページが続くようになる。私は基本的にそういう性格なのだ。
友人の手帳は、母の真面目な性格を私に思い出させた。と同時にそれは、今の私に欠落しているものであるように感じられた。
来年こそは、私も手書きの手帳を買って、几帳面さでも身につけようか…
いや、どうせまた続かないだろう。私はこの不真面目さと一生折り合いをつけていかなければならない。それに必要なのは手帳ではなく、きっと何か別のものなのだから。
それが何かはいまだによくわからないが…来年くらいには見つかるといいな。そうすればきっと、私はもう少し楽になるはず。
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