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私はどのようにフランス語を話しているか

渡仏してもうすぐ10年になる。語学学校にしっかり通い、フランスの大学院も卒業、小さいながらフランスの会社でも少しだけ働き、今では居住地こそ日本だが2国間を行き来しながら日常的にフランス語を使っている。

それでも、自分が「バイリンガルである」という自覚を持ったことはない。

そもそも、「バイリンガル」の定義自体が非常に曖昧であろう。ふたつの言語を母語として使用できるというレベルから、不自由はないが2言語の運用能力にそれなりに差があるというレベルまで、かなりのグラデーションがある。私はどちらかというと前者の意味合いで認識していたが、調べてみると必ずしもそうではないようだ。余談だが、親がどちらも日本人でフランス生まれフランス育ちの子供をたくさん見てきた経験からすると、親との会話だけだと日本語を習得するのには不十分であるようだ。そういった子供だちの結構な割合が不自然な日本語しか話せないのだ。きちんと日本語を運用できる子は、日本人学校に通っていたり、どこかで補習を受けていたりするケースが実はほとんどである。

もちろん私は前者のレベルに到達することは、大人になってからフランス語を勉強し始めたことを鑑みてもあり得ないことだし、後者のレベルかと問われると、言いたいことが言えなかったり言われていることが理解できなかったりということがザラにあるので、かなりあやしい。いずれにしても、確かにフランス語で普段から会話をしているが、だからといって私自身が「フランス語が習得できた」という自覚を持っているわけではないのだ。


フランス人の友人とパリで会った。彼女とは仕事のやり取りもあるので、定期的にコンタクトを取っている。普段彼女はフランス南部に住んでいて、今回はパリに来るタイミングでのミーティングだった。

日本に長く住んでいたこともありバイリンガルといっても差し支えない彼女との会話は9割がフランス語で、そこに1割程度の日本語が混ざる。お互いに「ここの表現は日本語のこれの方が近い」みたいな感覚が共通しているからか、2言語の使い分けが非常にスムーズだ。


そんな彼女が興味深いことを言っていた。

「ユータはそれぞれの言語を使って習得した知識を、自分の中で混ぜることができているよね。例えば香水に関することはフランス語でのインプットだけど、それを日本語でもアウトプットできているでしょ。私にはそれができないの。日本語で学んだことは日本語を話す自分からしか出てこないし、フランス語においてもそれは同じ。それぞれ別の人格がいて、それぞれが個別に学んでいる感覚なんだよね」

私からしたらとても不思議に思えたが、よくマルチリンガルは話す言語によって人格が違う、という話を耳にするので、彼女の言っていることは筋が通っているのかもしれない。それぞれの人格がそれぞれに学習していて、そのふたりの間では、少々極端な言い方かもしれないが、知識の共有がない、ということなのだろうか。

以前もnoteに書いたような気がするが、私は日本語を話す自分とフランス語を話す自分の差異をあまり大きく感じない。どちらもわりといつもの私であり、また彼女のいうようにどちらの言語でのインプットもひとりの「私」の中で咀嚼される。言語によって人格が違うということもない。いつもゴキゲンユータくんだ。


彼女の指摘を受けて、もしかしたら私は、フランス語を話す際に、一度日本語で考えたものを翻訳してから発話しているのかもしれない、とふと思った。一般的には言語に習熟していけば、その言語で考えながら発言できるようになるはずだし、私も私自身がそうしていると思っていたが、実はそうではなくて、私は常に思考は日本語で、流暢に話せるようになるプロセスの中で、その翻訳速度が上がっていっているだけ、ということなのではないだろうか。


先日、他の友人と子供の言語について話したことを思い出した。幼少期に海外生活をさせることで、バイリンガルとして育てることについて意見を求められた際、

「言語を使って思考することを鑑みると、幼少期はひとつの言語の運用精度を上げることで深い思考を可能にする方がいいように思う。それができた上で、2つ目以降の言語は必要な時にきちんと勉強して習得するのが長期的な視点に立つといいのではないか。現に私は大人になってからフランス語を勉強しはじめて一応ビジネスで使えるレベルにまでなった。もちろんそれは振り返ると大変だったが、母語を中途半端にすることでその後の思考にも影響があるかもしれないことを考えると、結果的にはよかったように思う」

という主旨のことを、「もちろん、それぞれに良し悪しはあるけど」と付け加えて回答した。


いずれにしても、正解はない。母語の精度が思考力に影響を与える、なんていうのは私の勝手な思い込みかもしれないし、もし私が幼少期にフランスに住んでいて改めてフランス語の勉強をする必要がなかったら、もっと楽な人生を歩めていたかもしれない。

正解はないゆえに、特にこの記事にもオチがないのだが、最後に、私の個人的な意見として、外国語を習得する際に優先して勉強するべきふたつのことを挙げて終わりにしたい。


それは、文法と発音だ。

これについてはまたどこかの機会できちんと書こうと思う。でも今日は疲れたのでおしまい。


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