映画感想『サンセット・サンライズ』
【ネタバレなし感想】
『笑いあり涙あり』
数多の映画で謳われたキャッチコピーが、ここまで的確だと思わされる映画は滅多にない。クドカンの真骨頂。
社会性のあるテーマを、誇張による笑いでコメディに落とし込む。
社会派ヒューマンドラマとしてもコメディとしても面白い。
場所や時代によって常識は変わる。
コロナ前の常識はコロナ禍では非常識。
コロナ禍の常識はいまや滑稽でさえある。
地方の常識は東京では通用しない。
東京の常識は地方では理解されない。
みんながみんな
自分が属する社会の常識とされる何かと、
他者が属する社会に対するイメージに囚われ、がんじがらめになっている。
でももっと根幹の部分、
自分自身が心の底から好きなもの、
好きな人や好きな場所、好きな食べ物などは、変わることはない。
常識に囚われることは滑稽だ。
好きなものを大切に生きよう。
そんな前向きな気持ちになる映画。
とはいえ全然しつこくなく、
気軽に観て気軽に楽しめる映画。
そして菅田将暉の映画はやっぱり外さない。
全然かっこよくない役もできるのが素晴らしい。
井上真央や竹原ピストルの魅力も満載。
塩辛と白ワインのマリアージュしたい。
美味しい魚が食べたくなる飯テロ映画。
【作品情報】
『サンセット・サンライズ』(2025 日本, 139分)
上映開始: 2025/1/17
配給: ワーナー・ブラザース映画
監督: 岸善幸
脚本: 宮藤官九郎
原作: 楡周平「サンセット・サンライズ」
キャスト: 菅田将暉, 井上真央, 中村雅俊, 三宅健, 池脇千鶴, 竹原ピストル, 山本浩司, 好井まさお, 小日向文世
【解説】
「正欲」「あゝ、荒野」の岸善幸監督が脚本家・宮藤官九郎とタッグを組み、小説家・楡周平の同名小説を映画化したヒューマンコメディ。菅田将暉が主演を務め、都会から宮城県南三陸に移住したサラリーマンが住民たちと織りなす交流を、コロナ禍や地方の過疎化、震災などの社会問題を盛り込みながらユーモアたっぷりに描く。(引用元:映画.com)
宮藤官九郎といえば、「木更津キャッツアイ」「タイガー&ドラゴン」「ゆとりですがなにか」「流星の絆」「あまちゃん」「いだてん」など数々の話題作の脚本を手掛けてきた。
2024年にも「季節のない街」「不適切にもほどがある!」「新宿野戦病院」などの骨太でユーモアあふれる社会派ドラマを世に出してきた。
そんな社会性とユーモアのバランス感覚に優れた宮藤官九郎にとって、本作のテーマは非常に相性がいいのではないか。
個人的には、映画脚本としての印象はあまりないが、これを機に映画の名作もどんどん増えていくのではないかと期待できる。
【あらすじ】
新型コロナウイルスのパンデミックにより世界中がロックダウンや活動自粛に追い込まれた2020年。東京の大企業に勤める釣り好きの西尾晋作はリモートワークをきっかけに、南三陸に見つけた4LDKで家賃6万円の物件に“お試し移住”することに。仕事の合間には海に通って釣り三昧の日々を過ごす晋作だったが、地元住民たちはよそ者の彼のことが気になって仕方ない。晋作は一癖も二癖もある住民たちの距離感ゼロの交流に戸惑いながらも、持ち前のポジティブな性格と行動力で次第に溶け込んでいくが……。(引用元:映画.com)
【ネタバレあり感想】
(以下、ネタバレ注意)
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笑いと社会性のバランスが素晴らしかった。
冒頭で東京から来た女性が船上で「お寿司食べたい」と言ったシーン。
「案内すっぺ」って言ったのだと思ったら「アニエスベー」だったのが秀逸すぎて、冒頭からしっかり喰らった。
さすが宮藤官九郎。
その後もコロナ禍の歪んだ常識を次々と繰り出していく。
喋る時にマスクを外すおじさん
ディスタンスという言葉
フェイスシールドやグータッチ
首都圏の人=感染してるという地方の考え
アルコール消毒に対する謎の信頼
リモート飲み会
次々とコロナ禍のあるあるが出てきて、こんなことあったなぁと思うのと同時に、その滑稽さに笑えてくる。
そして、時期的な常識の変化だけでなく、地方と都市による地理的な感覚の違いも描かれる。
地方ならではの自警?体制
東京ならではの他者に対する無関心
地方の人口減少と東京の人口過多
心のつながりとビジネスのつながり
特産品とテクノロジー
コロナ前後のあるあると、東京と地方それぞれのあるある。
細かい所作や言葉遣いであるあるがいっぱい詰まっている。
そしてリアルだからこそ、滑稽なコメディになっている。
菅田将暉演じる西尾が久々の東京で歩きづらくなっている姿は妙にリアルでとても印象に残った。
でも、そんな常識なんて関係ない。
西尾が釣りと町と百香を好きなことと、社会的な常識やイメージは無関係だ。
東京から来た人間でも、籍を入れなくても、血縁関係がなくても、家族になれる。
好きだから一緒に生きていける。
社会的な常識やイメージにとらわれるのではなく、自分の気持ちに素直に生きていきたい。
そんな前向きな気持ちになる素晴らしい映画でした。
だが一方で、
西尾のようにコロナを機に地方移住した人たち。
彼らはどれくらい生活を続けられるだろうか。
リモートワーク中心の職場環境から脱し、オフィスワークを求める会社も増えてきた。
彼らは仕事を続けられるだろうか。
はじめは新鮮で楽しく感じた地方の不便な暮らしに、ずっと耐えられるのだろうか。
都心とは異なる教育や医療システムの中で、彼らは子育てができるのだろうか。
こう思ってしまうのも、東京の常識に囚われているからなのかもしれない。
結局自分は、東京で自由に生きていきたいだけなんだろうなぁ。
もう難しいこと考えるのはやめて、
今すぐ三陸に旅行に行って、
美味しいお魚が食べたいです。
以上。