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あの花の名前を僕はまだ思い出せない

ずいぶんと日が伸びた。
18時を回ったというのに依然として川崎の空は明るく、
サックスブルーのジャージを着た学生たちは
各々談笑しながら家までの道を辿っている。

歩けばそこらかしこに
懐かしき“ 蜜が吸える花 ”が咲き乱れており、
街道と呼ばれる鼠色道路の両脇を
濃淡鮮やかに染めている。
僕はあの花の名前をすぐに忘れてしまう。
何故だろう、小学校の頃から知っているはずなのに。
『ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ』
おそらく、記憶に残るエピソードがないからだろう。


今日も撮影があった。
監督と色々話し合い、イメージを擦り合わせてから
撮影に入る。自分の感覚でやってみて、
それをベースに足したり引いたりして調整する。
生意気だけれど、そのチューニングというか
ドンピシャを探す作業が楽しくて、
『ああ、いいなあ。』としきりに噛み締めていた。
なんならちょっとにやけたかもしれない。
もしそんな瞬間がモニターに映ってしまっていたら
なんともお恥ずかしいからどうかその瞬間だけは
皆が黙想していてくれたことを願おう。
香盤表は見ていたはずなのにいきなり終わりは来て、
名残惜しさがざぶーんと押し寄せた。

また皆さんに会えるようにがんばりたい。


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