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【ベトナム現地レポート】環境危機と昆虫食ビジネスの最前線!農業支援と持続可能なフードテックへの挑戦
結婚式の翌日、夕方頃にジャック君に会うため、地元のカフェへ向かいました。そこでジャック君は、現地の農家の方々が生産する農作物の出荷支援に携わっている友人を紹介してくれました。
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左奥 Luan 昆虫食フードテックの起業家
右奥 Phu 現地農業家サポーター
右前 ぼく!!!
話を聞いていると、現在地域で深刻な問題が起きていることがわかりました。特にドリアンの収穫量が激減しているそうです。その原因として、地下水の汚染問題が挙げられました。ドリアンの栽培には地下水を使用するのですが、農家の方々は井戸を掘って、その水を灌漑に使用しているとのこと。しかし、近隣の工場から排出される重金属やヒ素による地下水汚染が進み、その影響でドリアンの木が枯れてしまっている状況だそうです。
私の前職が上下水道インフラの設計に携わる仕事だったため、この問題について具体的なアドバイスを求められました。まず、地下水への汚染物質の流入を防ぐための遮水板の設置を提案しました。これは地中に板を立てることで、工場からの汚染水の流入を物理的に防ぐ方法です。
また、より深い帯水層からの取水という選択肢も提示しました。現在使用している地下水層よりも深い場所にある帯水層の水は、まだ汚染の影響を受けていない可能性があるためです。ただし、これらの対策はあくまでも一時的な解決策に過ぎません。根本的な解決には、工場からの排水に対する規制強化など、自治体レベルでの包括的な環境対策が不可欠だと伝えました。
環境問題の話で盛り上がっていると、ジャック君は今度は別の友人を紹介してくれました。その方は32歳の若き起業家で、昆虫食ビジネスを展開している方でした。彼は自身でコオロギやココナッツワームなどの食用昆虫を養殖し、唐揚げのようなフライにしたり、イメージの払拭を兼ねてコオロギクッキーなど、食べやすい形態に加工して提供したりしているそうです。
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これがまた美味しい!!
興味深いことに、彼には日本との深い縁がありました。2016年から2020年の間、愛知県名古屋市で溶接工として働いていた経験があり、流暢な日本語を話すことができました。久しぶりに日本語で会話ができ、とても懐かしい気持ちになりました。
彼の起業ストーリーは、まさに情熱と創意工夫の賜物でした。日本から帰国後、もともとの趣味であった虫の飼育を活かして、コオロギの養殖を始めたそうです。ベトナムでは昆虫食が一般的であるにもかかわらず、パッケージ化された商品がまだ市場に出回っていないことに着目し、この分野の先駆者になることを決意したのです。
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しかし、事業の道のりは決して平坦ではありませんでした。最初は全く売れず苦戦していたそうです。そこで彼は、オンライン大学でデジタルマーケティングを学び直し、SNSを活用した販促を始めました。その努力が実を結び、現在ではTikTokのフォロワーが20万人を超える影響力のある発信者となっています。
会社名: HOA MẶT TRỜI FARM
会社ウェブサイト: https://hoamattroifarm.com/
TikTokアカウント: https://www.tiktok.com/@hoamattroifarm.com
彼は最初、SNSでの情報発信と並行して、東南アジア最大級のEコマースプラットフォームであるShopeeでの販売も開始しました。Shopeeはベトナムで圧倒的な利用者数を誇るプラットフォームで、そこでの販売実績を着実に積み重ね、その収益を事業に再投資することで、事業を拡大していきました。
彼の好意で、コオロギ養殖施設と工場を見学させていただきました。そこで驚くべき効率的な生産システムについて詳しく説明してくれました。コオロギは夏場なら35日、冬場でも45日程度で出荷可能になるという驚異的な成長速度を誇ります。さらに、飼育に必要なスペースも最小限で済み、餌もサトウキビやバナナの木、糠などの安価な材料で賄えるそうです。水の使用量も少なく、非常に効率的な食料生産が可能なのです。
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栄養面での優位性も特筆すべき点です。コオロギは体重の70パーセントがタンパク質で、さらに鉄分やビタミン、ミネラルも豊富に含んでいます。牛肉が体重100グラムあたり30グラム程度のタンパク質しか含まないことと比較すると、その効率の高さは明らかです。
ただし、課題もあります。エビやカニと同じ甲殻類に分類されるため、甲殻類アレルギーの方は摂取を控える必要があるとのこと。また、最大の課題は「イメージ」の問題です。ベトナムでは伝統的に昆虫食の文化があるものの、若い世代では敬遠する傾向も出てきているそうです。特に食料が豊富な先進国では、そもそも代替タンパク源としての必要性が低く、市場開拓が難しいという現実があります。
そのため彼は、ベトナムやカンボジア、アフリカなど、食料供給が不安定な地域をターゲットとして明確に定めています。私は日本との貿易の可能性について打診してみましたが、彼は現在、急成長するベトナム国内の需要にまず応えることを優先したいと考えているとのこと。今後2-3年はベトナム市場に注力する明確なビジョンを持っていました。
この若き起業家の姿勢には、多くの学びがありました。長期的な視点での事業計画、継続的な学習への意欲、そしてリスクを最小限に抑えながら着実に事業を拡大していく手法など、起業家として極めて示唆に富む取り組みを実践していました。
実際の工場見学を通じて、これらの取り組みを直接見聞きできたことは、私にとってかけがえのない経験となりました。このような革新的な事業に取り組む起業家が世界にいることを、多くの人々に伝えていくことも、私の使命の一つだと感じています。サステナブルな食料生産の未来を切り拓こうとする彼の挑戦に、心から感銘を受けた一日となりました。