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わらしべ長者ごっこ(後編)
さて、狸の置物と交換できたはいいが、この狸さんと交換してくれる人なんているのかな?と疑問を持ちつつも何故か期待だけはどんどん膨らみます。
そこで、とりあえず狸さんを車の助手席に乗せてドライブをしながら考えました。
見れば見るほど年季の入った味のある姿をしています。
確かに幸福をもたらしてくれるような…
やはり、昔ながらの商店を周ってみよう!
私の住まいから一時間ほど離れた場所にそれらしき雰囲気の場所があったのでそこにしました。
早速一件目。
…お断りされ二件目へ。
…またもやお断り。
確かに興味は持ってくれるのですが交換までは行かず、三件目の年季の入った豆腐屋さんへ。
事情を話すと、豆腐屋さんのおばあちゃんが
「その狸はどこにいるんだい?」
と聞かれましたので、私は意気揚々と車の助手席から狸さんを抱えて小走りでおばあちゃんのもとへ。
すると、おばあちゃんは
「夕方になったら、また来てくれるかい?」
と尋ねられたので
「もちろんです!」
と二つ返事。
夕方になったので早速行ってみました。
そしたら、豆腐屋さんは店じまいをしていて、奥からおばあちゃんが出てきて
「夕飯でも食べていきな」
と言って夕飯の準備をし始めました。
私は断る理由が無かったので、およばれすることになりました。
次々と食事が出てきて、更にはお酒まで。
私はお酒はちょっと…と断ろうとしたら、おばあちゃんは今夜は泊ってもいいと言ってくれたので、この際甘えることにしました。
美味しい食事と美味しいお酒。
19時を回り始めた頃からおばあちゃんの息子夫婦と中学生の孫が続々と帰ってきて、初対面にもかかわらず、事の成り行きを説明したら、みんな受け入れてくれ会話も盛り上がってきました。
もう正直この時間が狸さんとの交換物でいいや。とも思いましたが、22時頃におばあちゃんが
「そうそう、狸との交換物はこれでいいかい?」
と言いながら、戸棚をごそごそ。
私は、なんだろうとハラハラドキドキしていたら、出てきたのはウイスキーの『山崎』。
しかも、26年物!
当時の価格でおよそ10万円!
そんな高価なものと交換してもいいのだろうか?
私が迷っていると、それを察したようにおばあちゃんが
「なんだい、豆腐の方が良かったか?」
と聞いてきたので、私は
「いいえ、ウイスキーでお願いします」
おばあちゃんの家族ではウイスキーを飲む人がいないようで、ずっと戸棚の中に寝ていた、いわば要らないものだったのです。
しかし、頂いたものなので捨てられずにいたとか。
その後、私は満腹感と満足感でいつの間にか寝ていました。
朝になり、豆腐のいい香りで目が覚めました。
すでに、おばあちゃん以外はみな出て行ってましたが、挨拶をし、その場を後にしました。
おばあちゃんの豆腐屋さんの店頭にはしっかりとあの狸さんがいました。
家に帰った私はふと思いました。
そうだ、ゴールを決めてなかった!
いや、これがゴールでいいでしょ。
何事も欲を出しすぎたら失敗する。
豆腐屋のおばあちゃんが昨日そう言ってたっけ。
そう、このわらしべ長者ごっこはここで終わり。
ちなみに16年経った今も、『山崎』は未開封のまま、私たち家族の事を見守っています。