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🍥燻製魯肉飯🍥
角煮のようでいて、カレーのようでもある。ビールがよく似合って、ごはん泥棒の人たらし。台湾出身のニクイやつ。みんな大好き魯肉飯だ。
私も例に漏れず、三度の魯肉飯より魯肉飯が好きなほどの魯肉飯溺愛者である。
ちなみに、お馴染みの魯肉飯というのは当て字で、本来は滷肉飯と書くそうだ。
滷
それにしても──滷という字の強烈さよ。
なんというか、読めないし、書けない。何を言っても説得できないし、小遣いだって絶ッッ対に上げてくれなそうだ。小遣いを上げてくれぬばかりか、「殺」などと叫びながら、錆びた青龍刀を振り上げてどこまでも追いかけてきそうな──雰囲気すらあった。
🏃 滷 滷 滷
三匹の滷に追いかけられたときの絶望感たるや、そりゃあもう筆舌に尽くしがたいものがある。
貞子 滷 滷 滷
あの貞子ですら、三匹の滷を前にしたら裸足で逃げ出しテレビに戻って慌てて井戸に飛び込むにちがいない。蛇足だが、滷という字の横に貞子を配置すると、本当に逃げているように見えるから不思議なものだ。
貞の字はさて置いて、滷とは「ろ」と読み、塩辛い、という意味を持つ。しかし、これでは滷肉飯が「しょっぱい肉ごはん」になってしまう。さらに紐解いていくと、料理用語として滷水というものがあった。
これは、紹興酒、醤油、砂糖、五香、ねぎ、しょうが、にんにくを水に入れて長時間煮込んだ漬け汁、とある。
そうそう。これだよ、これ。
かいつまんで言うと「甘辛スパイス煮込み肉ごはん」ということになる。ここまで来れば、皆大好きルーロー飯に無事着地したと言えるだろう。
さて、滷に対しての誤解も解けてスッキリとしたところで、材料のバラ肉に煙を浴びせていこう。燻製家である私は、たとえ愛する滷肉飯といえども、
燻製をせずにはいられない。
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五香粉の強烈な香りに立ち向かうため、ヒッコリーにピートを加え、冷燻で強烈に煙付けをしていく。
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砂糖、醤油、オイスターソース、そして前述の五香粉などが基本的な味付けだ。そして、何といっても揚げたエシャロットをたっぷりと使うのがキモである。玉ねぎや白ねぎでも代用になるが、若辣韮至上主義者としては、独特の香ばしさと味わいの揚げエシャロットを推しておきたい。ちなみに、この料理で葉の部分は使わないが、薬味や炒め物にと美味しく便利なので取っておく。
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たっぷりの刻みエシャロットをカリカリに揚げ、油を切っておく。
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油に刻んだにんにくと鷹の爪を加えて弱火で香りを出していく。
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火を強めて燻製バラ肉を炒め、ある程度火が通ったら砂糖を加え、きつね色になるまで炒める。
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酒、水(かつお出汁や鶏ガラ◎)を加え、煮立ったら灰汁をとりのぞき、揚げエシャロット、生姜、五香粉、胡椒を加え、弱火で好みの状態まで煮詰める。より台湾を感じたいので、八角を少し追加した。
そして、滷肉飯の付け合わせといえば、まずは青梗菜。そして、何といっても肉と一緒に煮込んだゆで卵が定番だ。煮込みに煮込んで味の染みたハードボイルドの卵もうまいが、トロトロと半熟のほうが限りなく天国にちかい。そして、半熟の卵を見ては煙を浴びせたくてワナワナと疼き出すのが、燻煙偏執狂の性癖である。
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というわけで、しっかりと冷ました煮汁に卵を落とし、「すべては──この煮汁に隠されている…」などと含みを持たせつつ味も含ませていく。
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半日ほど漬け込んだ卵を燻製器に入れ、5〜10分程度の熱燻にかける。半熟を保ちたいので、短時間で一気に強い煙にかけるのがキモだ。じっくりと中低温で燻製するのも悪くないが、良くも悪くも水分が抜けて白身の表面が硬くなってしまう傾向がある。卵といえども一筋縄ではいかないのが燻製の面倒臭奥深さと言える。
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雌鶏が見たら卒倒しそうなほどに変わり果てた姿となった卵だったが、燻製家としては狙い通りの色付きと香りに仕上がった。しばらく燻製卵を手に匂いを嗅いで楽しんでいたが、卵をスンスンしては陶然とする父の姿を娘に目撃されでもしたら、彼女の行く末に暗い影を落とす可能性すらある。まことに名残惜しいが、鼻から卵を引き剥がし、未練ごと真っ二つに断ち切る。熱い白飯に青梗菜を敷いて、トロトロの滷肉をみっちりと乗せる。ここは──もちろんつゆだくにしておこう。そして、これ見よがしに黄身をさらけ出した卵をあしらって完成だ。
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こぼれないようにたっぷりとれんげですくい、大口で迎え入れる。
真好食…超好吃…
意訳が過ぎた気がするが、それほどの味であった。
ほのかな燻香と五香が効いたトロトロの甘辛い肉と揚げエシャロットの風味がたまらない。それらとタレを吸った米、シャクシャクとした青梗菜の食べ合わせも良い。手間をかけた可愛い可愛い燻製卵だが、味はまったく可愛くない。高校球児だとすればヒデキ・マツイ並みの超高校級のうまさだ。
ともすれば濃厚が過ぎるきらいのある滷肉飯だったが、おあつらえ向きにスーパーで見つけた台湾ビールとのさっぱりとした喉ごし邂逅もなかなかに感動的である。
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ふと妻を見やると、滷肉飯をうまそうに頬張る妻に後光が差している。それはまるで海に溶ける西陽のようであった。
しかし、よくよく考えたら、差し込んでいたのは後光ならぬ五香で、海ならぬ五香なのだった。