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「古事記」を読み解く:神話と歴史から学ぶ“いま”を生きるヒント

こんにちは。この記事では、日本最古の歴史書ともいわれる『古事記(こじき)』について、なるべく噛み砕きながらお伝えしていきたいと思います。「古典ってなんだか敷居が高そう……」とか「神話って昔の人の幻想でしょ?」みたいなイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、実は現代に通じる気づきや学びがたくさん詰まっているんですよね。

この記事は、高校生以上を対象に、リベラルアーツに興味がある人や、歴史・神話をこれから学びたいと思っている人に向けたものです。読み終わったあとで、「あれ、古代の人たちが考えていたことって、今の自分にも関係あるかも?」と感じてもらえれば嬉しいです。長文ですが、ところどころ雑談っぽくフランクに進めていきますので、どうぞ最後までお付き合いください。


1. 『古事記』ってそもそも何?

1-1. 編纂の背景

『古事記』は、奈良時代初期の西暦712年に完成したとされる、日本最古の“書き物としての歴史書”です。編纂(へんさん)を主導したのは太安万侶(おおのやすまろ)という人物で、朝廷の命によって、稗田阿礼(ひえだのあれ)が暗誦(あんしょう)していた物語や系譜を文章化したのがはじまりと言われています。

当時はまだ漢字がいまほど一般的に使われていなかったこともあり、日本語表記が模索されている最中でした。そういう意味で、『古事記』の文章は漢字表記をベースとしながらも、日本語特有の読み方が反映されている、いわば“古語”の資料としても非常に重要な存在なんですね。

1-2. 記録の形式と特徴

『古事記』は大きく3つの巻に分かれていて、上巻(じょうかん)・中巻(ちゅうかん)・下巻(げかん)という構成になっています。上巻では主に神々の物語(神代)を扱い、中巻・下巻にかけて初代天皇とされる神武(じんむ)天皇以降の系譜が記録されていきます。

面白い点としては、同じ神話や歴史的なエピソードを扱うもう一つの有名な書物『日本書紀』と比べて、口語的・物語的な要素が強いとされていること。より「ストーリーとしての面白さ」を重視している印象があり、人間くさいドラマやエピソードが盛り込まれているのも読みごたえのひとつです。


2. 神代(かみよ)の物語:イザナギ・イザナミからアマテラスまで

2-1. 世界のはじまりと国生み神話

『古事記』では最初、どのように世界や国土が生まれたかからスタートします。有名なのはイザナギ・イザナミという男女の神による“国生み神話”ですよね。二柱(ふたはしら)の神が天の浮橋(あめのうきはし)に立ち、天沼矛(あめのぬぼこ)という矛で海原をかき混ぜると、滴(しずく)が落ちて島ができた――という壮大な世界観から物語が展開します。

ちなみに、こうした神話の中には擬人化された自然の力や、抽象的な概念を神としてあがめる日本人の独特の精神性が垣間見えます。「山や川、海など、すべてに神が宿る」という多神教的な考え方は、古代からずっと日本文化のベースとして続いてきたんですね。

2-2. 神々の誕生とイザナミの死

国生みを終えたイザナギとイザナミのもとには、次々と神々が生まれます。しかし、火の神カグツチを生んだことで、イザナミが火傷を負って亡くなってしまう――という悲劇も同時に描かれています。

イザナミを失ったイザナギは黄泉(よみ)の国に彼女を追いかけるのですが、その黄泉の国での出来事がまた波乱万丈。イザナギが黄泉の国で見たイザナミは、生前の美しい姿とはかけ離れた恐ろしい姿になっていた……。神話ですが、どこかホラーっぽさもあり、古代の人々の死生観や“穢(けが)れ”の考え方が垣間見えます。

2-3. 三貴子(さんきし)の出現:アマテラス・ツクヨミ・スサノオ

黄泉の国から戻ったイザナギは、身を清めるために禊(みそぎ)を行います。そのときに生まれたのが、太陽神アマテラス、月神ツクヨミ、そして海原の神スサノオの三柱です。『古事記』ではこれを「三貴子(さんきし)」と呼び、彼らを中心に次々と神話ドラマが展開していきます。

アマテラスとスサノオの対立や、天岩戸伝説(あめのいわとでんせつ)などは、特に有名ですよね。スサノオの乱暴な振る舞いを見兼ねて、アマテラスが天岩戸に隠れてしまい、世界から光が消えてしまう――そこから様々な神々が協力し合ってアマテラスを外に連れ出すというストーリーは、協力と和合の大切さを象徴的に描いているとも言えます。


3. “神”から“人”へバトンタッチ:神武天皇とヤマト政権

3-1. 天孫ニニギの降臨

神話から人間の世界への“バトンタッチ”が起こるのは、アマテラスの孫であるニニギが地上界――つまり、葦原中国(あしはらのなかつくに)――に降り立つ段階からです。これは「天孫降臨(てんそんこうりん)」と呼ばれ、宮崎県の高千穂あたりが舞台だと言い伝えられています。

ニニギは“天照大神の孫”ということで神の血を引く存在。そんな彼が地上に降りて、国を治めることで、神の国から人間の国へ主役が切り替わっていくのが『古事記』の大きな流れになっています。

3-2. カムヤマトイワレビコ=神武天皇の東征

ニニギの子孫として誕生するのが、初代天皇とされる神武天皇です。別名カムヤマトイワレビコとも呼ばれる彼は、九州から大和の地(現在の奈良県)へ東征を行い、そこでヤマト王権を樹立したと伝えられています。

このエピソードからは、古代日本における各地の豪族や勢力の統合、もしくは征服の歴史が見え隠れします。もちろん、神話の要素も多分に入っていますが、当時の王権が「自分たちは神の血筋なんだ」と正当化しようとした背景もうかがえます。

3-3. ヤマトタケルの冒険と悲劇

『古事記』には、神武天皇以降の天皇や皇族のエピソードもさまざま登場しますが、中でも有名なのがヤマトタケルの伝説でしょう。彼は当時、朝廷の命を受けて各地の平定に奔走します。草薙剣(くさなぎのつるぎ)のエピソードなどは、学校の教科書でも登場するほどポピュラーですよね。

しかし、次々と遠征をこなす中で、ヤマトタケルは大きな苦難を経験し、最後は体調を崩して亡くなってしまう――という、神話にしてはリアリティある悲劇的な結末を迎えます。ここには「戦いの英雄であっても、人間らしい苦しみや弱さからは逃れられない」という普遍的なテーマが描かれているように思えます。


4. 『古事記』が私たちに教えてくれること

4-1. 神話の中にあるリーダーシップ・倫理観

『古事記』の物語には、リーダーのあるべき姿や倫理観が多く散りばめられています。アマテラスがスサノオの乱暴を許さなかったように、「秩序を乱す存在」をどう扱うかが大きな課題として描かれるわけです。一方で、スサノオが改心してヤマタノオロチを退治するエピソードなどは、「問題児」にも再生のチャンスが与えられるという寛容さを感じさせますよね。

4-2. 家族の物語として読む:対立と和解のプロセス

実は、日本の神話というと「遥か昔の物語」というイメージがあるかもしれませんが、登場人物(神々)は意外と人間くさい行動をとります。兄弟ゲンカをしたり、嫉妬したり、裏切ったり……。それらは一種の“家族ドラマ”として読むこともできるんですよね。

とくにアマテラスとスサノオのエピソードは、どこの家庭にでもありそうな“価値観の違い”や“感情的な衝突”がテーマになっています。現代社会でも、家族や友人、職場での人間関係の中で、衝突からどうやって和解に向かうかは大きな課題です。『古事記』はそのあたりの“折り合いの付け方”や“落としどころ”を神話のスケールで教えてくれる面もあると思います。

4-3. “語り”の力とアイデンティティの再発見

『古事記』はもともと、語り部である稗田阿礼が口述で覚えていた物語を、太安万侶が文章化したものです。つまり、コミュニケーション手段としての“語り”がベースになっているわけですね。

現代はSNSや動画など、発信方法が多様化していますが、根本的に「私たちは何者で、どこから来たのか」を語り伝えることは、アイデンティティ形成の土台になります。『古事記』を読むことは、いわば日本という国や文化、ひいては自分自身のルーツを見つめ直す作業でもあるのではないでしょうか。


5. 現代でどう役立てる?『古事記』を読むメリット

5-1. 自分のルーツを知ることで視野が広がる

国民としてのアイデンティティというとちょっと大げさかもしれませんが、自分が生まれ育った土地や文化の成り立ちを知ることは、想像以上に大切です。たとえば海外で「あなたの国の神話ってどんなの?」と聞かれたとき、自国の神話をある程度知っているだけで、コミュニケーションが広がったり、尊重される場面があるかもしれません。

また、神話を入り口にして多神教やアニミズムへの理解を深めると、環境問題や地域の行事、神社の行事なども違った視点で捉えられるようになります。

5-2. 神話がもたらす創造力とメタファー思考

神話はしばしば「事実と違うからいらない」と思われがちですが、実際には無数のメタファー(隠喩)が潜んでいて、想像力を豊かにしてくれます。巨大なヤマタノオロチを退治する話は、「大きな困難にどう立ち向かうか」というメタファーとして読めるし、天岩戸のエピソードは「組織や社会から閉ざされた存在をどう再び外の世界に引き戻すか」の暗喩かもしれません。

ビジネスやクリエイティブの場面でも、神話的な発想は新たなアイデアを生み出す源泉になります。抽象的な概念を神話に置き換えて語ることで、よりわかりやすく人に伝えられたり、自分の中の思考を整理できたりするんです。

5-3. 自分の悩みや人生観へのヒント

“神話”というとファンタジーのようですが、そこに描かれるのは「家族との別れ」「生と死」「希望と挫折」など、私たちが日常で抱えるテーマそのもの。

  • 人生の大きな選択に悩んでいるとき

  • 家族や友人との不和に苦しんでいるとき

  • 新しいことに挑戦したいけれど勇気が持てないとき

そんなとき、『古事記』のストーリーを思い出すと、自分なりの人生のヒントが見つかるかもしれません。神々の苦悩や挑戦、そして成功や失敗が、人間の私たちにも重なって見える瞬間があるはずです。


6. まとめ:『古事記』を通じて得られる学び

ここまでざっと『古事記』の概要や見どころ、そして現代に活かせる視点についてお話ししてきました。最古の歴史書というとハードルが高そうですが、読んでみると意外にエピソードが面白く、テンポよく進むので思わず続きが気になってしまいます。

  • 物語としての“面白さ”:神々の壮大なドラマや英雄たちの冒険がつめこまれていて、古代版のファンタジー小説ともいえるスケール。

  • 神話に隠されたメタファー:実際に起きた歴史とは異なっても、比喩的に読めば日々の課題解決のヒントが得られる。

  • 文化・ルーツの理解:神社や祭りなど、現在も残る文化を理解するのに役立つ。

「そもそも古典って、昔の人が残した書物だよね?」ということを考えてみれば、そこには必ず“昔の人なりの理由”や“願い”が詰まっています。『古事記』に登場する神々の姿や、そこから続く天皇や豪族たちのドラマは、ただの神話や歴史で終わらず、現代に生きる私たち一人ひとりを見つめ直すきっかけを与えてくれるかもしれません。


7. 参考文献・リンク

  • 岩波文庫『古事記』(倉野憲司 訳)
    → 原文を忠実に読みたい方におすすめ。注釈が充実しているので古語も学べます。

  • 講談社学術文庫『古事記』(次田潤 訳 ほか)
    → 学術的に定評がある訳本。詳しい注釈・解説付き。
    ※上・中・下巻あり

  • 国文学研究資料館 日本古典籍総合目録データベース
    https://www.nijl.ac.jp/pages/database/
    → 『古事記』の古写本をはじめ、多数の日本古典に関する情報を閲覧できます。

長文になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。古代の人々の想いがつまった『古事記』。遠い昔の物語が、いまを生きる自分に重なって見えるかもしれません。ぜひ、お気に入りの訳本を手に取って、古代の壮大な世界に足を踏み入れてみてくださいね。

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