奇想のパール製品たち
昨日公開したエントリで、表参道で開催中の展示会についてもさり気なく触れていた。
先日、原宿方面に赴いた際に立ち寄ったので、簡単に書いておきたい。
かつて田崎真珠として知られたこのブランドは、今はTASAKI(タサキ)として、養殖真珠だけでなく自社研磨のダイヤモンド、そしてさまざまなカラーストーンを使ったハイジュエリーも手掛けている。
ターコイズなどブルーの石とパールをあしらったラディアントと題されたラインナップが記憶に新しい。
そのTASAKIの70周年を記念するイベントが表参道のBA‐TSU ART GALLERYを会場にして行われている。5月12日まで(8月には大阪で開催されるとか)、入場無料。
わたしはこの会場に行くのは初めてだった。表参道の喧騒からはちょっと離れた立地で落ち着いた雰囲気なのが良い。
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白と黒を基調にしたデザインの会場の1階部分に新作ジュエリー、2階部分にコラボレーション作品が展示されている。わたしにとってとくに面白かったのは2階の展示で、パールをあしらったイヤホン、スニーカー、メガネなどが並んでいる。
どれも通貨がモンゴル・トゥグルクかと錯覚しそうな高額(スニーカーのひとつは400万円超!)だったので、実質非売品みたいなものだ。
最も高額のスニーカーには、アッパーの外よりにメッシュ状に組まれたアコヤ真珠がセットされている。取り外しできそうに見えてもしっかり固定されている。他にも違った合わせかたをしたものが何足かあって、靴の装飾としては案外アリかもなんて思ってしまう(洗えないけど)。パールは色も大きさも光沢もよく揃っている。
スタッフのかたが手にとってくださいと触らせてくれた。いやぁ残念、わたしの大足にはサイズが合わないなぁなんて冗談を言う。サイズが合えば試着させてくれたんだろうか(買えないけど)。
たくさんディスプレイされていたメガネも面白い。わたしは個性的なメガネをしているので、よく「どう見えるのですか」とか「オーダーメイドですか」などと訊かれる。しかし、ここに並んでいるメガネにはかないそうにない。
見出し画像の写真は、そんなメガネのひとつ。実用されるようには思えないけど、されるとしたらスリットから外光を採り入れるイヌイットのサングラスみたいな使いかたになる?いやいや、実用なんて野暮なことは言ってはいけない。存在感がすべて。インパクトを与えた時点でじゅうぶんにその役割を果たしているタイプのアイテムなのだから。わたしが裸眼でもよく見える視力だったらこの手のものを選んでいたかもしれない(見えないけど)。
もうひとつ。淡水有核パールで出来た衣服が面白かった。これには値段が付いていなかったから、正真正銘の非売品だろうか。
直交する2方向に合計4つの穴が開けられたパールを組み合わせて“生地”が作られている。淡水パールはいろいろなカラーがあるけど、脱色したものなのか似た色を集めたのかよくわからない。統一感はある。もしや昔の琵琶湖真珠?
使われているパールは2万個以上で、8キログラムの重さがあるという。その重量は鎖で出来た中世の甲冑を思い出させる。そうだ、真珠の業者さんもパールは重いって話してたな。
シルクは蚕蛾が作った素材で、パールは真珠貝が作った素材。文脈次第ではメッセージ性のある作品だと思った。
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一連の遊び心ある展示品は、エルザ・スキャパレッリのデザインを連想させる。パールを使ったものがあったかどうか定かではないけれど、有機的な素材を大胆に使った意外性は共通している。
そうそう、noteには書かなかったけど2年前に庭園美術館で観た「奇想のモード」展にも通じるセンスがある。あの展覧会では違和感をもたらす素材の組み合わせからデペイズマン→シュルレアリスムという視点でモードを捉えなおしていた。
TASAKIの70周年記念イベント、もしやシュルレアリスム宣言から100年に合わせてきたか(さすがに考えすぎ?)。
このイベント名はFLOATING SHELL。浮遊する貝。溶ける魚っぽい?うーん、考えすぎというわけでもないかもしれない。
会場の屋外にある大型スクリーンにはこのチラシにあるイメージのCG映像が流れていた。真球を2つの湾曲した円盤状の真珠光沢の物体が包み込むように配置されている。これはかつてのタサキのロゴに似ている。伝統を踏まえながらも新たなブランドイメージを強調する意図があるか。
規模の違いすぎるティファニーワンダー展と同時期のタイミングになったのは、ちょっと気の毒に思える。しかし小規模ながらもとても存在感ある展示会だ。地下鉄の表参道駅の改札付近や通りにも、このTASAKI70の広告がたくさん出ている。存在感を増してゆくブランドの創り出すものは面白い。
なにかと不穏な世相だけど、こうしたものがもっともっと増えてくれるような時代の空気感になってほしい。
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