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26歳にM&Aされた40歳経営者のPMIを語ろう

こんにちは。株式会社Plottの取締役としてビジネス領域を管轄している山田です。
私は約3年前、近接領域で事業展開をしているPlottに、自身で経営していたBUZZCASTがM&Aされた経験を持っています。

一緒になってから管轄している事業が前々年度対比で1,200%成長(昨対だと450%成長)しており、ありがたいことに昨年シリーズBとして約10億円の資金調達ができました。

外から見ると順調そうに見えますが、ここに至るまで多くの葛藤と苦悩、困難がありました。
直近スタートアップの経営統合、M&Aは増えてきており、今後も更に事例は出てくると考えています。そして、どう向き合ったのか、良し悪しも含めて教えてほしいと相談をいただくこともあるので、今回はこれまでの3年間をnoteにまとめてみました。
今まで話してなかった裏側も含めてお伝えできればと思います。


【本質的には勝ちきれなかったBUZZCAST時代】

Plottと一緒になる前、BUZZCASTという会社を経営していました。
元々は株式会社メタップスの100%子会社でしたが、2016年にマネジメントバイアウト(以下、MBO)しています。
インフルエンサーマーケティングを主体として、事業を展開していました。

数年でリーチ可能な視聴者数がのべ4,000万人を超えるネットワークを国内外で構築し、特に台湾では人口の20%にリーチできる規模まで事業を展開。

売上も大きく拡大していきました。
一方で事業は所謂代理店モデルであり、事業を始めた当初は高い利益率を誇っていましたが、インフルエンサーマーケティングに参入する企業が増えた結果、利益率が低迷してきてしまいました。

他人の土地を販売しても低い利益率は改善しない。自分達の土地を販売することで高い利益率が作れるのではないか、と考え自社でコンテンツ事業を展開。

当時ジャンプ+で連載されていたマンガのキャラクターを活用したVTuberや、自社オリジナルアニメチャンネルを展開し、MAUは300万を超えるチャンネルを運営していました。
しかし、その数値ではマーケティング事業で販売する規模を賄うことができず、中小企業としては生きていくことはできるが、スタートアップとして非連続に成長しきれない歯がゆさを感じる毎日でした。
また、BUZZCASTは当初取締役が3人いましたが、事業成長の鈍化と私のマネジメント力不足で最後は社内に残る取締役は私1人となっていたのです。

一人で文化の違う2つの事業を見ることとなり、マーケティング事業は売上を出せるが、競争優位性を作りにくい。
コンテンツ事業は成功すれば大きな事業規模を目指せるが、足元では売上が立ちにくい。
非常に悩みましたが、マーケティング事業はクライアントニーズがある限り再開ができ、自社IPを持っている方がシナジーも作れると考え、マーケティング事業からコンテンツ事業にピボットする意思決定をしました。

そして1年程コンテンツ事業に向き合い続けたある日のこと、起業家仲間だったPlott代表の奥野から会社を一緒にしないかという提案がきたのです。

【自身の会社を手放す覚悟】

奥野との出会いは、BUZZCASTに出資いただいた「gumi ventures」が主催するコミュニティでした。
「gumi ventures」は、VTuberやSNSなど、領域投資を行っており、近接領域の起業家が集まるコミュニティ運営をしていました。そこで当時学生起業をしていた奥野と知り合いました。
他にもVR事業を展開するVARK加藤さん、キズナアイを展開するActiv8大坂さん、Plottで奥野と一緒に事業をやっていた北岡さんなど、多くの人達が参加しており、経営や事業の悩みを相談したり、グロースしていく様を横で見て刺激を受けたりと、とても良いコミュニティでした。

起業家同士ということで交流の機会も多く、実務でも一緒になる機会がありました。
PlottのコンテンツをBUZZCASTがクライアントに提案することもあれば、PlottのマーケティングをBUZZCASTでお手伝いすることもありました。
そんなある日、奥野から「サシでサウナに行きませんか?」と連絡が来ました。そして、その場で「お互い別々のことをやるよりは、一緒になった方がもっと大きいことができると思うんです」という提案をもらったんです。

提案をもらった当初は、奥野の方が若く、BUZZCASTよりも成功していることに悔しい感情もありました。正直それしかなかったです。

それから奥野とは20回ほど話を重ねました。
何故BUZZCASTなのか?何故山田なのか?
奥野目線で何に価値を感じたのか。

奥野からは「Plottはコンテンツを生み出せても、それをビジネス化できる人がいない。世の中にはビジネスしかできない優秀な人は多くいるが、コンテンツもビジネスも両輪で思考できる人は少ない。山田さんしかいないと思った」という話をもらいました。
当時、BUZZCASTが伸び悩んでいたこともあり、自己評価は最低でした。そんななか、そういう目で見てもらっていることは、少し報われる気持ちにもなりました。

また、話を進めるなかでPlottのコアメンバーとも話す機会もありました。
同い年で経理を管轄している籔谷、人事を管掌している久野と、各人がコミットする領域を持っていながら、自分の管轄以外のことも会社を主語にして議論しているのを見られたのは非常に得るものがありました。

反面、代表取締役だからこそできる大胆な意思決定ができなくなる不安はありました。
自分がオーナーであることと、他人の船に乗ることの差は大きいのではないか?
極論、奥野が右といえば、自分としては左でも右にせざるを得ないこともあるんじゃないか。
と悶々とした日々を過ごし、信頼できる起業家や事業家に3ヶ月ほど相談や壁打ちもしていただきました。

株主でもあり、事業支援もしてくれていたアドウェイズ西岡さんに相談したときは、「短期で見なくても良いんじゃない?まだ当てるチャンスあると思うよ」と言っていただけ、まだBUZZCASTとしてやっていこうという思考になることもあれば、Plottの人たちと話をして、一緒になってもいいのかもと葛藤する日が続きました。

ただ、奥野の人の良さ、Plottの良さを十分理解していましたし、話を重ねるなかで、一緒になればもっと大きなチャレンジができるんじゃないかという感覚も得られてきました。実は当時、別の会社からも似たような話をいただいていました。
でも「誰とやるか」が決め手となり、最後は「個」として向き合ってくれるPlottと、奥野と一緒にやっていこうという決意をしました。
今思えばそれは正しかったと思っています。

【全株主からの反対】

決意したのは私と奥野ですが、株主にはまた別の立場からの意見があります。
統合の話をしたところ、全株主から非常に強い反発がありました。特にPlottサイドの株主には全反対される結果となりました。

・スタートアップとして一定の時価総額がついていたこと
・マーケティング事業からコンテンツ事業にピポットしており、売上が落ちていたこと
あたりが主要因でした。

代表の奥野とは一緒にやっていこうと話をしており、BUZZCAST側では新しい事業も一旦止めるというなか、半年かけてコミュニケーションしたものの、合意に至らなかったらどうなるんだろうと、自分の介在だけでは解決できない壁にぶつかったのです。

それでも奥野は非常に紳士的に全株主に話をしてくれました。
粘り強く熱意を持って全株主にコミュニケーションを取ってくれたこともあり、最後は「反対だけど、奥野さんが言うなら」というところまで進みました。
ここまで誠実に向き合う人だからこそ、一緒にやっていけるなと感じていました。

※補足ですが、現在は全株主の皆さんと非常に良い関係で「あの時はどうかと思ったけど、事業成長してるから良かった」と言っていただいています(笑)。

【離脱することになったメンバー】

BUZZCASTとPlottが一緒になると覚悟したのは経営陣と株主であり、当たり前ですがメンバーにもそれぞれ別の意思があります。
私としては、BUZZCASTにいるメンバーはPlottにも一緒に来てほしいという願いがありましたが、競合他社としてPlottに負けたくないと思っている熱いメンバーもいたので、コミュニケーションは非常に丁寧に行いました。

当時チームを見ていてくれていたプロデューサー陣全員と個別に1対1で話をしました。
面談を始める前は、ネガティブな意見が出たらどうしようと怯えていました。これまでPlottを競合視してしまっているところは大なり小なりあるので、どうやって向き合っていこうかと戸惑うメンバーもいました。ただ、最後は同じ業界としてPlottのIPを尊敬していることもあり、納得感を持って意思決定を尊重してくれました。

ただ、全員ではなく、離脱することになったメンバーもいます。

YouTubeから離れて、新しい環境も見てみたいという人。
たまたまタイミングが重なり、実家に戻ることとなった人。
そして、業務内容・カルチャー的にPlottでのキャリアルートを提示できなかった人。

何度も面談を重ねながら、どういうキャリアが各社員にとって最適か、とことん話し合いました。
当時いたメンバー全員を引き連れてやっていく未来もあったのかもしれません。
しかし、Plottという新しい環境で今まで以上に成果を出さなければいけないというなかで、必ずしも全員を連れて行くことがみんなの幸せにはならないと考えました。
Plottに連れて行けなかったメンバーに恥じないよう、より一層強い覚悟を持った期間でした。

そして2022年の春、PlottとBUZZCASTは一緒になりました。

【葛藤し続けた半年間】

一緒になってからの数か月間は、キャッチアップ目的のミーティングだけで時間が過ぎていく日々でした。

当時Plottは「ホラクラシー型組織」をベースとした組織運用を行っており、DAO(分散型自律組織)に近い運用方式を取り入れ、階層やマネジメントが存在せずに各自が最もやりたいことに向き合う組織づくりを目指していました。
私は、これまでのカルチャーと180度異なる環境に多少の戸惑いがありましたが、郷に入っては郷に従えというスタンスのもと、キャッチアップする毎日を過ごしていました。

しかし、個人のやりたいを重視するカルチャーへの適応が想像以上に難しく、いくつかの領域を任されたものの、事業マネジメントもピープルマネジメントも上手くできていない感覚をずっと持っていました。一緒になった直後に弱音を吐くのは良くないなと誰にも相談できず、精神的には少し苦しかったです。
これがずっと続くとメンタルが壊れるかもしれないと思うぐらいに、この環境でやり続けられるのだろうかと不安を抱えていました。

そんな状態を知ってか知らずか、ある日奥野と1on1していると「1年成果が出なくても良い」と言われました。
短期で成果を追い求めるより、長期でPlottに定着していってほしいというメッセージでした。
少し気持ちが楽になったことを覚えています。それでも、依然として成果が出ていない状態は続きました。
このままPlottに、バリューを示せずに居続けていいのだろうか?と考える日も多かったです。
そして数か月後、転換期となることがありました。

【Plottでやっていけると感じられた日】

ある日、他社さんから協業IP創出のご相談をいただきました。
以前から小学館さんやバンダイナムコエンターテインメントさんと協業しているIPがありましたが、新たに1社、PlottとSNSを起点としたIP創出ができないか、という話をいただいたのです。

これまでは代表の奥野か当時の取締役が協業のフロント業務を行っており、その二人に負担が大きくのしかかっていました。一方でこれまで各社とアライアンスを進めてきた自分にとって、二人のリソースをかけることなく新しい取り組みができる、バリューの発揮場所でした。

私は社内のプロデューサー1名、クリエイティブ担当数名とともに企画を作り、座組をまとめていきました。
Plottのメンバーは、コンテンツとSNSの解像度が高く、SNSでヒットするコンテンツの企画を作ることを得意としています。一方でビジネス側の折衝の経験値は少なかったため、私は企画全体を一定触りつつ、ビジネス側をグリップする役割を担うことにしました。
一緒に動いていたメンバーから、
「山田さんがコミュニケーションに入ってくれて頼もしかった」
と言ってもらえて、小さな信頼を社内で作れた実感もありました。

しかし、そう順風満帆とはいきません。
制作に着手して1〜2か月経過したある日、今作っている企画は時流に沿ってないのではないか、このままだと話題にならないのではないかと感じ、大胆な方針転換をせざるを得ない状況に陥りました。

背景にあったのはTikTokの台頭による、YouTubeの大きな仕様変更です。
これまで横型の動画のみで展開していたYouTubeが、縦型のショート動画を取り入れ始めたのです。
既存のアニメチャンネルでも、ショート動画に注力しないと、新しい視聴者に知ってもらうことができないマーケットに変化をしていました。

ビジネス的には絶対に変更するべきという意思がありました。
一方でこれまで作ってきてくれたクリエイティブの方向性を全てひっくり返す提案でした。
社内メンバーのモチベーションは低下し、反発まで出るだろうと覚悟していました。
しかし、それは私の杞憂でした。
正直に現在の市況感を踏まえてコンテンツとして話題を生むためにこうしたい、と伝えたところ、それはそうだよね。と思った以上にすっと話がまとまりました。
ビジネスとクリエイティブが融合するとはこういうことかと、Plottの強みを実感する瞬間でした。

チーム一体となって動けた期間であり、私がPlottに貢献できることがあると認識できた出来事でした。
そして、このあたりからPlottへのコミットがより増していったと思います。

そんななか、大きな変化がありました…

【そして訪れた100人が50人になった日】

Plottは2年前の2023年2月に、社員数が半分になりました。
代表の奥野がnoteに当時のことをまとめており、組織面には触れているので、私は事業面で振り返りをします。

Plottは資金調達もしており、現金は規模相応な程度に残っていましたが、毎月数千万円が消えていく状態でした。
YouTubeで多くの再生数を保持していたPlottがなぜ赤字に陥っていたのか。
それは、IPビジネスが抱える構造の問題でした。

当時のPlottはショートアニメを主軸に展開していましたが、実はアニメは得られる収益に対して、コストの負担が大きい事業モデルです。
一般的にアニメの収益は2つの種類が存在します。

■1次収益
TVアニメにおいては、古くはDVDの販売によって得られる収益。最近ではVODへの放送権の販売収益。

■2次収益
音楽、ゲーム等の商品化による収益。

どんな有名なIPも1次収益より2次収益が大きいことが一般的で、そこまで広くビジネス展開を行うことで初めて収益がコストを上回る産業構造なのです。

参考出展
https://finders.me/kqFQpDE0OTI

当時のPlottは非常に多くの再生数を保持していましたが、1次収益にあたるYouTubeから得られるAdsense広告が主な収益源でした。
個人活動であれば非常に大きな金額となりますが、100名規模で事業展開しているPlottでは制作費の方が上回る逆ザヤ状態に陥っていたのです。

また、組織構造上もフルフレックスや自律分散型組織のデメリットが肥大化し、奥野がnoteで述べた通り「楽しい会社」を目指してたはずが「楽な会社」になっていました。

組織の改革は非常にシンプルです。

・自律分散型組織から、階層型組織に
・フルリモートから出社に
・一定の事業数値を満たさないIPを撤退

シンプルではありますが、この意思決定に至るまでかなりの時間を要しました。
事前の議論に2か月、準備に2か月、その後の移行期間に4か月程でしょうか。
主に代表の奥野、CHROの久野、またHRチーム全員が毎日毎日向き合ってくれていました。
大変な改革でしたが、やれることはやりきれたと思います。

一方で事業の改革はすぐには進みませんでした。
私のミッションは「2次収益を作ること」でした。

【2次収益を生み出すために発散、そして迷走】

私は、YouTubeから得られるAdsense広告を主な収益源としていたところから、それ以外の2次収益を作ることに注力しました。
あの時は何が事業化できるか全く分からず、奥野や久野と議論しながら、可能性があることには広く着手していく意思決定をしました。

・他社協業IPの立ち上げ(制作費を出資していただくモデル)
・アニメと相性が良いと思われるスマホゲーム展開
・ユーザー層が丸被りしていた歌い手グループ立ち上げ
・IP別の商品展開
・海外で伸びていたUnreal Editor for Fortnite(Fortniteでのゲーム配信)

今振り返っても目が回るほど色々やっていました…
足元の事業も担当していたので、連日朝から晩までミーティングをして、合間に資料作成したり、外部の方と情報交換したり、もがく毎日が続きました。

上記の取り組みがどうなったか、成功事例、失敗事例の両方を具体的にお伝えできればと思います。

【他社協業IPの立ち上げ(制作費を出資していただくモデル)】

前述の通り、当時のPlottは、自社で新規IPを立ち上げても赤字になってしまう状況でした。その一方で、10代のユーザーにリーチしたい企業は多く存在していました。

特に、アニメ領域に興味がある企業からいくつかお声がけいただいていたこともあり、自社IPではなく、パートナー企業とともに立ち上げるIPの創出に舵を切りました。

ゲーム会社、出版社、TVアニメ会社、また異業種も含めてSNSからIPを作りたい企業や、SNSで10代にリーチしたい企業など、30社ほどとコミュニケーションを取り、数多くの企画を提案しました。

ありがたいことに数社が賛同してくださり、1年で3タイトルを立ち上げる機会をいただきました。
この取り組みにより、足元の収益は大きく改善することができました。

【アニメと相性が良いと思われるスマホゲーム展開】

人気や相性次第ですが、TVアニメをゲーム化することは一般的であり、私たちが展開しているショートアニメでも相性は良いのではないか、と仮説を立てていました。
元々、私がゲーム会社で働いていた経験もあり、個人的にも相性が良い領域。

SNSでアニメを見ているユーザーは、広告視聴に慣れているユーザーだったため(YouTubeを視聴する前に広告を見てから動画を視聴している)、マネタイズモデルは広告を中心に設計。
視聴デバイスはスマホが多いので、スマホゲーム一択。
失敗するリスクを踏まえて、まずは低コストで開発できるカジュアルゲームを開発しました。

リリース後、IPのファンに告知をすると1か月で約3万ダウンロードと、スマホゲームがレッドオーシャン化しているこのご時世に、広告出稿なしでここまでの数値を作ることができました。
また収益規模も一定拡大し、その後も毎月安定した売上に成長しました。

この小さな成功を見て、よりリスクを取った開発をしても良いと判断しました。
それまで低コストで開発していたため、ゲームボリュームが小さく、継続率やARPU(課金、広告収益含む)、LTVが高くないゲームでしたが、より開発工数を上げ、LTVが高いゲームを開発しようと考えました。

しかし、スマホゲーム市場で目立つ「ソーシャルゲーム」を開発することは、リスクが高すぎます。
そこで着目したのが、「ハイブリッドカジュアルゲーム」でした。
この領域で有名なゲームは、例えば「ダダサバイバー」や「スライム伝説」などです。
アクション、シミュレーション、RPGのような領域で、ガチャを引く通貨を販売するのではなく、課金と動画リワード広告をハイブリッドに提供しており、近年伸びているジャンルです。

具体的には、自社IPである『テイコウペンギン』を用いたゲームを開発し、2023年11月に「テイペンウォーズ~ブラック企業破壊大作戦~」というゲームをリリースしました。
前回リリースしたカジュアルゲーム以上にファンの間でも話題となり、リリース1か月でダウンロード数は、7万ダウンロードを超えました。
売上規模もかなりのインパクトがありました。

今では『テイコウペンギン』を支える柱の一つとなり、IPとしての収益も「1次収益」に対して「2次収益」が同等以上の比率となっています。

【ユーザー層が丸被りしていた歌い手グループ立ち上げ】

PlottがSNSで展開するショートアニメの視聴者は、10代がボリュームゾーンでした。
これまでの経験から、10代をファン層とする事業で大きくマネタイズするのは難しい(クレジットカードやキャリア決済が使えないのでオンライン購入ハードルが高い。またお金と時間を自由に使いにくい)と考えていましたが、近接領域で伸びていた歌い手グループは、視聴者が丸被りしているのに、その壁を乗り越えていました。

推し活として、アイドルを応援するかの如く、歌い手を応援していたのです。
Plottのファン層とも非常に相性が良いと考え、この領域の知見がなかったこともあり、歌い手グループの活動を全てチェックするところから始めました。
歌い手グループは、夕方以降にライブ配信を行うことが多いので、毎日18~23時の時間帯をブロックし、ずっと配信を追いキャッチアップ。
それと同時に、どんなグループコンセプトがいいのか企画を考える暗中模索の日々でした。

Plottが持っているショートアニメとの連動や、収益設計等色々と考えましたが、最終的には事業化をしない意思決定をしています。

その理由は、事業責任者(私)との相性です。
10代の女性が抱く感情を100%理解するためにはかなりの時間が必要で、その時点で出せる企画は60点くらいのものだという自覚がありました。
事業として成り立たせるためには100%の状態の解像度を持っていないと、何をすればいいか分からない状態になってしまう。
他にも事業の選択肢があるなかで、これ以上そこに時間を賭けるのは違うと判断しました。

当たり前の話ですが、新規事業を成功させるためには事業オーナーの思考の範囲に沿っているか、潜り切れるか、が大事だということを痛感しました。

【IP別の商品展開】

これまでのPlottでは、近接領域のVTuberが行っているような、ECサイトでのグッズ展開を行っていましたが、ユーザー層が10代であり、オンライン決済のハードルが高いことから、売上は低迷。かかる人件費やコストを踏まえると赤字状態。
ユーザー層が変わるまでは、ECサイトは撤退することにしました。

また、どのIPも同じような商品展開を行っていたのでIP毎の方針を立てました。
キャラクター性が魅力の『テイコウペンギン』は自社マーチャンダイジング(以下、MD)での展開よりもライセンシーさんとの取り組みに注力し、アミューズメントプライズやカプセルトイ等の領域を広げる。
ストーリーに強みがある『混血のカレコレ』、『全力回避フラグちゃん』は自社MDを優先。
世界観そのものに独自性がある『私立パラの丸高校』は両方の道を模索。

その中で一番大きな影響力を発揮できたのが「ストーリーに強みがあるIP」でした。

まず、10代がSNSでハマっているIPをベンチマークとし、彼らがどんな商品展開をしているのか調査をしました。
そして、ユーザー層が近い歌い手グループ・ゲーム配信者グループの展開等を調べていると、コンビニ各社との取り組みが多いことが分かりました。
10代のユーザーは移動距離に制限がありますが、コンビニであれば概ね自宅近辺にあり、また現金決済もできるので、相性が良いと仮説を立てました。
実際にコンビニ各社との取り組みを試してみたところ、撤退したECサイトの売上と比べて10倍以上の数値を作ることができました。
結果として、新たなマネタイズを発掘することに成功しています。

海外で伸びていたUnreal Editor for FortniteFortniteでのゲーム配信もユーザー層と相性が良いと考えて着手しました。
まだマネタイズロジックが明確ではない領域でしたが、先行者利益が取りやすいマーケットだと考えて、予算を決めてすぐに開発着手。
『混血のカレコレ』を題材にしたゲームを制作し、ユーザーの方々が遊びたくなるようにストーリー連動要素も取り入れました。

リリース後、2日間で10万人以上の方に遊んでいただき、同時接続数は2,000人と当時の国内市場では上位に入る程でした。

一方で、マネタイズは不調でした。
国内市場では話題になりましたが、海外市場でも話題にならないと難しいカテゴリだったため、この領域は1つゲームをリリースして撤退することにしました。

【1年の苦しみから得られたこと】

このように、今振り返っても迷走していた時期でしたが、このタイミングに動いて得られたことは非常に多かったです。
動きだしてから半年~1年経過してやっと結果が出るので、可能な限り「多く」「早く」打ち手を講じることの重要性を再認識しました。
また、最後の最後はプロジェクトオーナーに手触り感があり、得意なところに収束した印象を持っています。強みに寄せることが非常に大切であり、今もそれは意識するようにしています。

撤退したものもありましたが、2次収益を得るというミッションは、一定結果を出すことができました。そして、現在のPlottでは改めてオリジナルIPを創出するターンに戻ってきています。
この1年の苦しみが無ければ、まだまだ潜る時期が続いていたと思います。

そして、二次収益の拡大とともに社員採用活動も再開。
そのなかで、私が元々経営していたBUZZCASTに在籍していたメンバー数名の入社もありました。
こうしてまた一緒に働くことができ、違う環境でひと回り成長した姿を見ることができているのはとても幸せです。

そうして元BUZZCASTメンバーと仕事をすることが増えるなかで、これまで以上にスムーズに仕事ができていることを実感し始めました。
このことが、Plottメンバーとの違いって何なんだろうかと考え始めるきっかけとなりました。

【悪い意味で親戚のおじさんポジだった】

私が管掌している部門は、IP展開というIPのビジネスを拡充していくチームです。
元々Plottでバラバラに動いていた、広告、グッズ、ライツと、新たに新設したゲーム、音楽、パートナーIPチームを束ねており、既に存在していたチームをマネジメントするには非常に時間がかかりました。
組織変革の最中でもあり、それぞれが正解を模索しながら働いていたことも起因していると思います。
私も長くPlottで働いている人たちの邪魔をしたくなかったので、あと一歩が踏み込めずにいました。
コミュニケーションは取っていて仲が悪いわけではないが、腹を割った話ができない。そんな親戚のおじさんポジションになっていました。

新規事業をBUZZCASTメンバーと一緒に動いたことで、その違和感が日に日に強くなっていきました。
「何故BUZZCASTメンバーだと事業がスムーズに進み、他のメンバーだと手間取ってしまうのか?」
とてももやもやを感じ、代表の奥野、取締役の久野に相談もしていました。

徐々にメンバーと意見が食い違うことも増え、日々のコミュニケーションコストも膨れあがり、互いにストレスを感じていることが分かるようにまでなっていきました。
その時に、奥野と久野から「一度気持ちをちゃんと伝えてみたらいいのでは?ロング1on1やった方がいいんじゃないですか?」と意見をもらいました。

正直、その当時は話し合って解決するならそもそもこういう状態にならないのでは?という感情もありましたが、提案してくれたのでひとまずやってみようと思い、実施を決意。
マネジメントしている各メンバーと数時間カレンダーを押さえて1on1を設定。ファシリテーション役として久野が同席してくれることもありました。
お互いに思っていることを場に出そうと、付箋に何十枚とお互いに感じていることを書き出し、一つずつ交換しあうように進めました。

そして相手を否定する発言にならないよう、
「感謝している気持ち」
「こうしてほしいと思っている気持ち」
と率直な自分の気持ちを共有するように意識しました。

このロング1on1を通じて、お互いの理解がとても深まりました。
どういう背景で何を感じているのか、それがどういうスタンスやアクションに繋がっているのかが明瞭化され、相互理解が非常に進んだことを覚えています。

これにより、近い距離で踏み込んで向き合うことができるようになり、コトに向き合って事業を展開できるようになりました。

徐々にIP展開事業部は全社的に見ても強い組織となり、Plottを牽引するチームとなっていきました。
今ある組織に馴染むことも大事ですが、そうやって自分が向き合えるチームを作ることも大事だったなと思っています。

【IP展開事業部の拡大】

そんなIP展開事業部は、少数精鋭でやっていたなかで事業が急拡大し、人員も1年で3倍以上になりました。

とにかく質の高さを重視した採用を行いました。
採用チームからは「IP展開だけ他チームより厳しい」とフィードバックをもらったことが何度もあります。
それでも練度を下げることはしませんでした。

採用チームには大変申し訳ないなと思いながら、少数チームだったが故に受け入れキャパも小さかったため、とにかく即戦力の人材を求め続けました。
一方で、ポテンシャルが高いと感じた人材に限り、第二新卒メンバーも採用する意思決定をしています。
そのメンバーは今では各チームで売上最高記録に貢献する程の活躍をしてくれています。

また山田個人として、リファラル採用にも力を入れました。

BUZZCAST時代に一緒に働いていて、別の会社に巣立った元新卒のメンバーが2名、過去近い領域で働いていたハイレイヤーメンバーを2名。
計4名を1年でリファラル採用することができました。

1度目に話した時は、今じゃないと断られた事もありましたが、半年に1度はコミュニケーションを取り続けて採用に至っています。

DeNAの南場さんが「良い人材は何年かけても追い続ける」というお話をされていた記事を読んだことがありますが、まさに本質だと思っています。
一緒に働きたいなと思った人は一度断られても、次のフェーズでPlottを選択肢に入れてもらえるように「このタイミングで無しと思ってくれても構わないので、一度本気で提案させてほしい」と、コミュニケーションを取るようにしています。

気が付けば事業は大きく成長し、人も増え、管轄領域でやることが大変多く、今は1日13時間ミーティングが入る日もあります。
ゲーム、音楽、MD、ライツ、広告と、異なる事業を見ているので、混乱しそうになりますし、しんどいこともありますが、私は今Plottで楽しくハードワークできています。

【今後に向けた希望と野望】

そんなIP展開事業部は昨年対比で450%も成長しました。
今期に入り、1Qの実績は昨年対比200%と、更に売上最高記録が続いています。

今ではIPの2次収益を作る部門として実績を出せており、その結果、自社IPを作るターンにやっと戻ってくることができました。

近々リリースするIPがたくさんありますので、ぜひまた皆さんに共有させてください。

Plottは今、事業変革期です。
YouTubeだけの会社から、IPの会社に。
1次収益だけだったところから、2次収益まで作れる体制に。
50人の組織から100人の組織に。
マネージャーの人数は3人から15人となりました。

私たちが目指している世界は、「日本から全世界で大ヒットするIP」を複数生み出し続けること。
大ヒットIPは簡単には生まれません。
週刊少年ジャンプが創刊されてからドラゴンボールが大ヒットするまで何十年とかかりました。
また、ドラゴンボールに匹敵するワンピースや鬼滅の刃が生まれるまで、更に何十年とかかっています。
※ちなみにマンガは大好きでKindleに6000冊くらい入ってます!個人の好きとビジネス規模を切り分けています。

私たちが選んだ道は、短期間で成し遂げられる道ではありません。
長期間向き合っていく必要があります。

楽しいことばかりではないですし、しんどいことも多いです。
エンタメというハードワークになりがちな業界で、スタートアップとして非連続成長を追い求めるために目まぐるしい勢いの中を突き進むのは、大変な仕事かもしれません。

そんな仕事を今楽しめている自分がいて、これは一人で会社を経営し続けていたら得られなかったことかもしれません。

この先もずっと、ここPlottからIPを生み出すことをやり続けられたら幸せだなと思っています。

また、スタートアップは何者でもなかった人が何者かになっていく場所だと思っています。
人が少なく、事業は成長していくので多くの打席があり、圧倒的な経験値が手に入り人が育っていく場所です。
BUZZCASTから一緒に来た当時の新卒メンバーが今はマネージャーになり、チームを率いています。
第二新卒で採用した若手が1年でチームの売上最高記録を作ってくれています。
そんな若者たちが何者かになっていく様を一人でも多く増やしていきたい。

私もまだまだ何者でもありませんが、国内で事業を立ち上げ、後任のメンバーも増えてきたので次は海外事業立ち上げにもチャレンジしていく予定です。
(まだ奥さんには言ってません。どうしよう…)

以上、26歳にM&Aされた40歳経営者の長きにわたるPMIの話でした。
長文にお付き合いいただきありがとうございました。



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