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認知症患者に対する胃ろう造設は、患者さん本人を幸せにしているのか?

重度の認知症患者に対する胃ろうの造設は推奨されておらず、米国老年内科会は「低価値医療」の一つとしています

認知症患者の食事量が減ってきた場合に、補助のもとで経口摂取を続けても(胃ろうと比べて)死亡率、誤嚥性肺炎の発症率、機能予後に差がないことが複数の研究から分かっているからです。

むしろ胃ろうは興奮、身体的・化学的拘束の増加、合併症による医療費の増加、新たな褥瘡の発生につながると報告されています。

しかし、日本ではまだ進行した認知症患者にも胃ろうが造設されています。全国の胃瘻造設者数は約26 万人と推計されます。胃ろう造設者の9割は寝たきり状態にあり、胃瘻を造設することは本人の意思を反映していない可能性があります。

厚労省の調査結果によると認知症が進行した場合には、多くの人は中心静脈栄養も胃ろうも希望していません。

(出典:厚生労働省

医療者にいたっては実に9割近くが「希望しない」と回答しています。

(出典:厚生労働省

認知症患者本人のためには、介護者が補助しながら口からの食事を続けた場合がよい場合が多いです。しかし、誤嚥のリスクがある人に、周りの人が補助しながら食事させるのはとても手間も時間がかかります。しかも施設で経口摂取させて、窒息したりしたら、家族から訴えられる可能性もあります。

そういった状況の中で、家族や施設側の都合で、「患者本人の希望とは矛盾する形」で胃ろうなどが造設されている場合があるのではないでしょうか?

アドバンス・ケア・プラニング(ACP)という考えがあります。

(出典:厚生労働省
(出典:厚生労働省

終末期においては約70%の患者で意思決定が不可能だと報告されています。

そうなってしまったときに治療方針(延命治療をするかどうかを含む)に関する自分の希望を意思疎通することができなくなってしまうので、元気な時にあらかじめ治療方針に関する意思を確認しておいたり、意思疎通ができなくなってしまったときに、自分の治療方針に関する代弁者となる「代理決定者」を決めておくプロセスのことをACPと呼びます。

「代理決定者」は家族でもよいですし、友人でもよいのですが、重要なのはその家族がどうしたいのかではなく、患者がもし意思疎通できたらどうしたいと思うかを代弁してもらうということです。医療者の方にも注意して頂きたいのですが、これは重要な違いです。

神戸大学の木澤義之先生によると、以下のようなコミュニケーションがよいそうです。

(出典:木澤先生 資料
(出典:木澤先生 資料
(出典:木澤先生 資料

これを見て頂けるとだいぶイメージが付きやすいと思います。木澤先生の資料は、他の部分も含めてACPについて非常に分かりやすく日本語で説明しているのでおすすめです。

きちんとACPが広まり、終末期医療が患者本人の希望する方法と一致するようなることで、誰も不幸にすることなく(むしろ患者本人を幸福にする形で)、日本の社会保障費が適正化することが理想的だと私は考えています。

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