「衆院での人権決議の採択」が持つ意味は何か
昨日、衆議院は新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議案を賛成多数で採択しました。
採択された決議案は以下の通りです[1]。
今回の決議では中国を名指しせず「新疆ウイグル、チベット、南モンゴル、香港等」と記すことで間接的に中国を対象とすることを示し、「深刻な人権侵害」ではなく「深刻な人権状況」と表記することで、中国を直接的に批判することを避けています。
また、中国政府は「内政に干渉した」と決議に反発進姿勢を示した趙立堅外交部副報道局長の談話を掲載したものの[2]、春節に入り、冬季オリンピック北京大会直前に決議することで中国国内の注目が決議に集まらないようにしたことは、行政府ではなく立法府による決議という点も含め、日本政府の妥協の姿勢を示唆するものです。
それとともに、今回の決議は中国への批判を強める米国をはじめとする各国に「日本もわれわれに同調している」という解釈を許す余地を作るだけに、米中両国の間の均衡を保とうとする日本の現実的な対応の現れていると言えるでしょう。
一方、国際社会を眺めれば、「人権侵害」であれ「人権状況」であれ、人権を巡る状況が厳しさを増す国や地域は中国だけに限りません。
そのため、今回の決議によって中国のみを標的にして批判を行っているという非難を受けないためには、各国の人権問題に何らかの形で関与することが求められかねません。
もとより政府も国会も相応の覚悟をもっていることは容易に推察されるものの、もし長期的な展望を持たず、対立する双方の陣営の間隙を縫うことのみを考えているとすればどうなるでしょうか。
その様な時は、どちらの側からも不信感を抱かれ、日本の外交上の立場が危うくなりかねません。
従って、今回の決議は日本にとって重要であるとともに、今後の動向にも十分な注意が払われる必要があるのです。
[1]新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議案(第二〇八回国会、決議第一号). 衆議院, 2022年2月1日, . https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/ketsugian/g20817001.htm (2022年2月2日閲覧).
[2]人権決議「内政に干渉」. 日本経済新聞, 2022年2月2日朝刊3面.
<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Lower House's Adaptation of Resolution Expressing Concern about Human Rights Issue in China? (Yusuke Suzumura)
The Japanese House of Representatives passed a resolution expressing concern about human rights issue in China on 1st February 2022. In this occasion we examine both positive and negative meanings of resolution.