日本の公職選挙に何が起きているのか--1960年の米国大統領選挙の事例から
米国の作家のセオドア・ホワイトは、1961年にThe Making of the President 1960を出版しました。
日本でも、渡邉恒雄と小野瀬嘉慈の両氏の翻訳により、『大統領になる方法』(光文堂、1964年)として刊行されており、ジョン・フィッツジェラルド・ケネディとリチャード・ニクソンの間で行われた1960年の米国大統領選挙が、どれほどそれまでの選挙と異なる画期的なものであったかが克明に描かれています。
特に、ホワイトのケネディ家への取材と調査は徹底しており、例えばケネディが思想も信条も、さらに来歴も異なるリンドン・ジョンソンを副大統領候補に指名した理由のように、あたかもケネディ家の居間にいなければ聞けないような話をふんだんに織り込んでいる点は、本書の価値を高からしめる一因となっています。
ところで、本書の見どころの一つは、ケネディとニクソンによるテレビ討論会の場面でしょう。
すなわち、議論の中身ではなく、テレビ映えする方が視聴者である有権者の心証をよくするとして、様々な取り組みがなされる様子は、あたかも商店の店頭で消費者が商品を手にしたくなるように工夫を凝らして陳列を行うように、大統領選挙が本質的な変化を遂げたことを読者に印象付けます。
そうした変化はさらに進み、今年11月5日(火)に投票が行われた大統領選挙では、これまで以上に多様な手法が駆使されたことは、われわれのよく知るところです。
一方、長らくこうした変化と無縁であったかのような日本の選挙も、今年になって大きく様相を改めているように思われます。
すなわち、7月の東京都知事選挙や11月の兵庫県知事選挙など、従来の常識を覆したり既存の法の隙間を縫ったりするような出来事が当然のごとく行われる光景が散見されるようになりました。
こうした現象をどのように捉えるかは意見の分かれるところでしょう。
しかし、少なくとも1960年の米国大統領選挙における革命的な変化と同じ状況が起きているであろうと言うことは可能です。
それだけに、今後こうした状況がどのように推移するのか、注視するところです。
<Executive Summary>
Is there Any Change in Japan's Public Election? (Yusuke Suzumura)
It is the well-known fact that the US Presidential Election 1960 is the most important quotative turning point. On this occasion, we examine the possibility of same changes for Japan's public election.