「ペロシ訪台」の持つ意味は何か

去る8月2日(火)、アジア各地を歴訪中の米国下院議長のナンシー・ペロシ氏が台湾を訪問し、翌日には蔡英文総統など要人と会談しました。米国下院議長が訪台するのは1997年4月に当時のニュート・ギングリッチ氏以来25年ぶりとなります[1]。

今回の訪台は、今年11月の中間選挙に向けて中国に対する強硬な姿勢を示すことで有権者の歓心を買おうとする米国内の状況を反映した結果であると考えられます[2]。

米国側が、国内の事情により従来の「一つの中国」政策を変更するかのような行動をとる一方で、中国側も習近平国家主席が今秋の中国共産党大会で3期目の党総書記就任を目指しているため、現状の中台関係を揺るがすような米国側の態度を看過できないという国内事情があります。

中国側がペロシ氏の訪台にあわせて台湾周辺で大規模に軍の動員を行っているのは、こうした国内の様子を反映したものです。

さらに、米国としてはギングリッチ氏の訪台という先例を踏まえたということで今回の訪台を特別な出来事ではないとしようとするものの、ペロシ氏が短時間の滞在ではなく1泊したことは米国側が台湾を他の国と同格に扱っていることを示唆しており[1]、習近平政権にとっては面目を失う状況に他なりません。

これでは、中国側にとっては米国の対応について譲歩したり妥協する余地は小さくなるばかりです。

何より、25年前に比べて米中の政治的、経済的、軍事的な差は縮小していますし、米国そのものも覇権国家としての影響力を行使する意欲を減退させています。

こうした状況の中で、ペロシ氏の台湾訪問の情報を報道陣に事前に教える形で世論の圧力によって訪台を中止させようとはしても、最後まで翻意の要請以上の対応を取らなかったことは、バイデン大統領の指導力と政権の外交能力に疑問を抱かせるには十分なものであったと言えるでしょう。

それだけに、今後米中間の関係がどのように展開するか、十分な注意をもって推移を見守る必要があるのです。

[1]米下院議長「米台は団結」. 日本経済新聞, 2022年8月4日朝刊1面.
[2]「政治の季節」強硬に傾く. 日本経済新聞, 2022年8月4日朝刊1面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of US Speaker Nancy Pelosi's Visit to Taiwan? (Yusuke Suzumura)

US Speaker Nancy Pelosi visited Taiwan on 2nd an 3rd August 2022. On this occasion we examine a meaning and impact of this event for relationships between the USA and the People's Republic of China.

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