「検察庁法改正問題の終わり」を意味しない「今国会成立の見送り」

報道によれば、安倍晋三首相と自民党の二階俊博幹事長が会談し、現在国会で審議されている検察庁法の変更について、今国会での成立を事実上見送る方針で一致したとのことです[1]。

世論の反発だけでなく、自民党の議員の中からも審議が不十分であり、強行採決に反対する旨を明言する声があったこと[2]を考えれば、政府首脳が法律の改正案を早期に成立させられないと判断しても不思議ではありません。

また、一部の世論調査では「検察庁法改正問題」に関して反対する回答が多数を占めるとともに、内閣支持率も低下しているという結果が示されているため[3]、「高い支持率を保つ限り、官邸の求心力は強い」[4]という政権の権力構造からも、関係者の間に無理をするよりも世論の鎮静化を待つ方が得策という思惑が働いたことが推察されます。

実際、2018年3月から4月にかけていわゆる「森友・加計問題」が明らかになった際に安倍政権に対する世論の支持が低下したものの、現在に至るまで政権は維持されています。

そのため、政権首脳が「国民はすぐに忘れるから、ほとぼりが冷めるまで様子を見よう」と考えることは、経験に基づく適切な選択肢となることでしょう。

一方、議会の歴史を振り返れば、一旦は採決が見送られた法案が直ちに再提出されて成立した事例があります。

例えば、1967年の健康保険特例法案については、特別国会での成立が見送られる代わりに特別国会が閉会した3日後に臨時国会が召集され、可決されています。

この時は、自社両党の首脳による「成立まで持っていく」という暗黙の了解がありました[5]。

従って当時と現在の現在の状況は自ずから異なり、両者を比較することは不適切かもしれません。

それでも、過去の事例は一度は採決に至らない法案であっても、次の「山場」はすぐに訪れるかもしれないということをわれわれに教えます。

その意味で、「検察庁法改正案の今国会成立の見送り」は事態の終わりではなく、終わりの始まりでもなく、始まりの終わりでしかないと言えるでしょう。

[1]検察庁法改正案 今国会成立を事実上見送り 首相と自民幹事長. NHK NEWS, 2020年5月18日, https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200518/k10012434721000.html (2020年5月18日閲覧).
[2]泉田裕彦. "私、国家公務員法等改正案を審議している衆議院内閣委員です。今、一部委員退席のため休憩中です。検察庁法の改正案は争点があり国民のコンセンサスは形成されていません。国会は言論の府であり審議を尽くすことが重要であり強行採決は自殺行為です。与党の理事に強行採決なら退席する旨伝えました。". 2020年5月13日13時08分, https://twitter.com/IzumidaHirohiko/status/1260421556334989319 (2020年5月18日閲覧).
[3]検察庁法改正案 「反対」64%、「賛成」15%. 朝日新聞, 2020年5月18日朝刊1面.
[4]10万円給付に透ける「安倍一強」終わりの始まり. 日本経済新聞, 2020年4月27日, https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58468250U0A420C2000000/ (2020年5月18日閲覧).
[5]竹下登, 政治とは何か. 講談社, 2001年, 138頁.

<Executive Summary>
This Is Not the End, but the End of the Beginning: Prime Minister Shinzo Abe and Dropping Legislative Proposal to Extend the Retirement Age of Japan's Top Prosecutor (Yusuke Suzumura)

It is reported that Prime Minister Shinzo Abe decides to drop legislative proposal to extend the retirement age of public prosecutor on 18th May 2020. It is not the end of the issue but the end of the beginning, since they think public opinion is easy to warm and easy to cool.

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