【旧稿再掲】ユニフォーム着こなし最前線(IV)

2010年4月、私も寄稿者の一人として参加し実業之日本社から実用百科の一冊として『野球道具天国』が刊行されました。

その中の一報に「ユニフォーム着こなし最前線」[1]があり、野球におけるユニフォームの発展の過程と2010年時点における最新の動向を検討しました。

そこで、今回は4回にわたりご紹介する本論の草稿の第4回目をお届けします。


ユニフォームのすそが長い本当の理由
日米とも、1930年代までのユニフォームは現在でも通用するような洗練さを備え、1970年代から1980年代にかけては体に密着したユニフォームが好まれるという点で、共通している。

その間、膝下からソックスの見える長さが上下したことはあったが、ストッキングを隠さない、という点でも、日米は共通していた。

そのストッキングが隠されるようになるのは、1990年代になってからである。日本で最初にストッキングを隠すようになったのは現役晩年の宇野勝だ、という指摘もあるが、「最初の一人」が誰であれ、1990年代半ばには広く普及することになる。

実際、1995年に千葉ロッテマリーンズを率いたボビー・バレンタインは、着任早々、全選手にストッキングを出すように指示したほどであった。

これの着方も大リーグを手本にしたものだが、米球界の選手たちは素材が原因ですそを伸ばすことを余儀なくされたのである。

大リーグのユニフォームの素材はナイロン製で伸縮性に乏しく、概して動きにくい。大リーグに3年間在籍した新庄剛志が、ニューヨーク・メッツに入団して間もない2001年に、「ユニフォームが硬くて着られない」と言ったのも、アメリカ製のユニフォームの特徴によるものだ。

この、硬く、伸縮性にないという欠点を補うために生まれたのが、寸法に余裕をもたせたユニフォームで、これによって動きにくさを解消しようとしたのである。つまり、大リーグの選手たちはもとから体よりやや大きめのユニフォームを着用していたのだ。

そして、すそのゆとりに注目した選手たちが、寸法が大きく太ももから足首までがほぼ直線的なズボンを着用するようになったことで、大リーグのユニフォームの着こなしが変化したのだ。

そして1990年代半ばから大リーグの情報を容易に入手できるようになると、日本の選手の間で「だぼだぼとしたユニフォームを着るのが大リーグ流」という見方が広まった。

しかも、バリー・ボンズら有力選手も寸法の大きいユニフォームをゆったりと着ていたのであるから、「ストッキングを隠す」という着方は、「だぼだぼのユニフォームを着る」という着方へと、流れが変わったのである。

イチローの着こなしに込められた意味
だが、状況はまた移りつつある。ソックスを隠していたシアトル・マリナーズのイチローが、2006年のワールド・ベースボール・クラシックを境に膝下までネイビー・ブルーのソックスを出すようになったのも、その姿を手本とし、日米の選手たちがソックスを出し始めたのも、周知のとおりだ。

しかし、イチローも単に先祖返りをしているわけではない。「イチローの着方はクラシック・スタイル」とはいうものの、実際にはストッキングをはかずソックスを伸ばしているのである。

これは1920年代に全盛を極めた様式だが、こうすることで、イチローは自らの野球に対する態度を視覚的に示しているのである。

すなわち、この着方が全盛であった時代は、機動力と論理的な野球が尊ばれた「飛ばないボールの時代」であり、タイ・カッブ、サム・ライス、ジョージ・シスラー、トリス・スピーカーら、イチローの祖先ともいえる選手たちが活躍した時代だったのである。

自覚の有無にかかわらず、イチローは、自分の野球観を、ユニフォームで示しているのだ。まさに、ユニフォームの着こなしは、選手の個性を代弁するといえるだろう。


[1]鈴村裕輔, ユニフォーム着こなし最前線. 野球道具百科. 実業之日本社, 2010年, 82-85頁.

<Executive Summary>
The Latest Trends of Baseball Uniform (IV) (Yusuke Suzumura)

I wrote an article "The Latest Trends of Baseball Uniform" for a book named Baseball Equipment Encyclopedia published in April 2010. On this occasion, I introduce the first section of the article.

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