「出生数80万人割れ」に際し改めて為政者に少子化対策の要諦を説く

昨日、厚生労働省が2022年の出生数について、速報値で79万9728人であったと発表しました[1]。

出生数が80万人を下回るのは、比較が可能な1899(明治32)年以降で初めてで、国の推計に比べて11年早くなっています[1]。

いわゆる少子化問題は1990年代から日本の将来を左右する大問題であるとされ、様々な施策が行われながら、現在に至るまで出生数や出生率の根本的な向上が実現していないことは、少なくとも政策面においては当局の対応が十分なものでなかったことを推察させます。

また、過去30年間で育児休業制度の拡充などがなされながら、特に男性の育児への参画の割合が上昇せず、依然として女性の負担が大きいままであるという点は、制度をよりよく活用するための環境が整っていないか、環境が整っているとしても制度を利用しようという動機に欠けることが窺われます。

こうした状況からも、現在岸田文雄政権が「従来と次元の異なる少子化対策」を標榜し、少子化対策を政権の最重要課題の一つに挙げていることは重要であり、これまで以上により積極的で多様な政策の実現が期待されます。

それとともに、少子化対策の枢要は、子どもを産みたいと考える人たちが安心して子どもを産み、育てられる環境を、金銭的、物理的、精神的など様々な側面から整備することであって、投入する金額の多寡や各種の指標の改善は短期的には測定できるものではなく、長期的な視野の下でなされるものであるという点にあることは、為政者が絶えず念頭に置かねばならないものです。

従って、直近の選挙に勝利するために有権者の歓心を買うためといった短絡的な発想ではなく、50年後、100年後の日本のあり方への責任を果たすという大局的見地から取り組まねばならないのが、少子化対策です。

その意味でも、「出生数80万人割れ」といった話題に終始することなく、為政者には不退転の決意で少子化対策に臨むことが求められるのです。

[1]出生急減 80万人割れ. 日本経済新聞, 2023年3月1日朝刊1面.

<Executive Summary>
What Is an Important Attitude for the Statesperson to Realise the Countermeasures against the Low Birthrate? (Yusuke Suzumura)

Yesterday, the Ministry of Health, Labour and Welfare announces that the number of babies born in Japan of 2022 is under 800,000 which is the lowest number since 1899. On this occasion, we examine an important attitude for the statesperson to realise the measures.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?