【追悼文】松平頼暁先生について思い出すいくつかのこと
去る1月9日(月、祝)、作曲家で生物物理学者の松平頼暁先生が逝去しました。享年91歳でした。
作曲家の松平頼則先生の長男として生まれ、生物物理学を修める傍らで作曲を学び、研究者としても作曲家としても一家をなしたことは周知の通りです。
歌劇から管弦楽曲、ピアノ曲、そして電子音楽まで様々な作品を手掛けた松平先生の音楽を、私が初めて演奏会場で鑑賞したのは2000年9月25日のことでした。これは、サントリーホールで開催された高橋美智子さんによるマリンバ・コンチェルトの演奏会「21世紀へのプレリュード」で、取り上げられた5つの作品の1つが、松平先生の『オシレーション』でした。
『オシレーション』は第28回尾高賞を受賞した、松平さんの代表作の1つであり、小松一彦さんの指揮による東京交響楽団の伴奏と高橋さんのマリンバとが生み出す華やかさを備えた音楽は、聞き応えのあるものでした。
その後はなかなか松平先生の作品の実演を鑑賞する機会はなかっただけに、2005年10月6日の「作曲家の個展2005 松平頼暁」と2011年12月20日の「松平頼暁 80歳の肖像」をそれぞれサントリーホールと東京オペラシティ・リサイタルホールで聞けたことは、今になって振り返れば得難い経験となりました。
特に「作曲家との個展」は、所定の規則に従って音楽を作り、感情の発露や内なる自己との対話の成果ではなくシステムの展開によりもたらされる、ある種の機械的で自動的な生産物としての音楽という松平先生の作品の特長をより直接的に体験できたものです。
もちろん、私が松平先生の作品をどこまで適切に理解できたかは、おぼつかないところです。
それでも、一時代を画し、日本の音楽史の発展に貢献された松平頼暁先生の音楽に親しめたことだけは間違いなく、改めてご冥福をお祈り申し上げる次第です。
<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Professor Emeritus Dr. Yoriaki Matsudaira (Yusuke Suzumura)
Professor Emeritus Dr. Yoriaki Matsudaira, a composer and scholar of biophysics at Rikkyo University, had passed away at the age of 91 on 9th January 2023. On this occasion I remember some memories of Professor Matsudaira.