ジョー・バイデン大統領の就任演説の持つ意味は何か
昨日、米国大統領にジョー・バイデン氏が就任しました。
就任式での演説では、自らが大統領となったことを「今日はアメリカの日であり、民主政治の日であり、歴史と希望の日であります」と述べるとともに、「民主政治の中で最も捉えどころのないもは団結であります」、「われわれの国民を団結させ、われわれの国を団結させます」、「団結は前に進む道なのです」と、国民と社会の団結の重要性を繰り返し強調しました[1]。
確かに、ドナルド・トランプ前大統領の政権下で米国の国民と社会の分断が進むとともに、米国が国際社会から孤立する傾向を深めたことは周知の事実です。
そのため、トランプ前大統領が就任直後から前任のバラク・オバマ氏の施策のいくつかを取り止める大統領令に署名したように、バイデン大統領がトランプ氏の施策を取り消したこと[2]は、新たに誕生した政権の清新さを訴えるための常套的な手段となります。
一方で、米国社会の分断は決してトランプ政権下で突然起きた現象ではなく、むしろ冷戦終結後の国際秩序と国際社会の変化がもたらした種々の矛盾や弊害を背景とし、これらの問題がトランプ前大統領の登場によって先鋭化したと考えることが出来ます。
従って、「多くの直すべきことが、戻すべきことが、癒すべきことが、作るべきことがあるのです」と社会と国家の再建が必要であると訴えはするものの、具体的にどのような形で分断の修復を行うのかを示さないことは、バイデン大統領の演説が抒情的で文学的であるとしても、聞く者に政治的な力強さを欠くという印象を与えかねないものです。
あるいは、演説の中で「再び、私たちは、アメリカを永遠に世界の牽引役とすることが出来るのです」(We can make America, once again, the leading force for good in the world.)と述べたことは、トランプ前大統領の標語である"Make America Great Again."を念頭に置き、「トランプ時代」を乗り越えるために強調された一節と言えます。
しかし、世界の牽引役に戻ることは、実はオバマ政権から着実に始まっていた米国の覇権の放棄と世界の多極化という潮流に反するだけに、どこまで実現することが出来るかも不透明です。
その意味で、バイデン大統領は、演説によって人々に期待と希望を与えつつも、実現の可能性を実際の政治活動によって示すことが不可欠となるのです。
[1]Inaugural Address by President Joseph R. Biden, Jr.. The White House, 20th January 2021, https://www.whitehouse.gov/briefing-room/speeches-remarks/2021/01/20/inaugural-address-by-president-joseph-r-biden-jr/ (accessed on 21st January 2021).
[2]Biden, in a Burst of Climate Orders, Rejoins the Paris Agreement. The New York Times, 20th January 2021, https://www.nytimes.com/2021/01/20/climate/biden-paris-climate-agreement.html (accessed on 21st January 2021).
<Executive Summary>
What Is a Meaning of the Inaugural Address by US President Joseph Biden? (Yusuke Suzumura)
US President Joseph Biden made the Inaugural Address on 20th January 2021. President Biden emphasises "unity" of people and nation and possibility of making America as the leading force for good in the world. However it is not clear for us whether President Biden will achieve his efforts, since he does not show exact way to realise what he mentions in the address.
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