【評伝】エリザベス2世陛下--現代史そのものを生きた英国王

9月8日(木)、英国王エリザベス2世陛下が崩御しました。享年96歳でした。

1952年に25歳で即位したエリザベス2世は、第2次世界大戦後に英国が植民地帝国としての地位を維持できず、植民地の独立が進む1950年代半ばから1960年代に「青年女王」として君臨しました。

「独立を許す」という「植民地との和解」は英国の歴代の政権の役割であり、直接の外交政策に女王が関わることはなかったものの、英国の元首として相手国を訪問する、あるいは相手国の指導者が訪英する際に直接会談することで双方の国民のわだかまり、あるいは「どうして独立するのか」という英国民と「長年支配されてきた」という旧植民地の国民の感情的な対立を和らげる役割を担ってきました。

あるいは、第2次世界大戦中の敵国であった日本との関係についても、サンフランシスコ講和条約の発効により日英間の友好関係が回復しても首脳同士の直接の交流がなかった中で、1971年に昭和天皇が訪英し、1975年にエリザベス2世が訪日することで、「過去の清算」がなされました。

また、女王はアジア各国を含む現在53か国が加盟するコモンウェルスの首長としても精力的に活動し、2年ごとに開催されるイギリス連邦首脳会議(CHOGM)にも自ら出席して各国首脳と直接対話を行い、友好関係の維持・発展に努めてきました。

スリランカで開催された2013年のCHOGMではチャールズ皇太子が出席し、これ以降遠隔地での開催の際は女王は名代を派遣することになるものの、即位以降、コモンウェルスを重視する姿勢は変わりませんでした。

このように、エリザベス2世は、具体的な問題に関する外交交渉などの実務を担う政府がしばしば対立や相克に陥る中で、相手国との友好関係の構築を担当するという「王室外交」を積極的に行い、アジア地域における英国の存在感の向上に努めました。

もちろん、国王としての日々の執務によって母として子どもと接する機会が限定されたことやチャールズ皇太子とダイアナ妃との関係の悪化や王室に対する国民の関心の低下など、70年にわたる在位期間中には様々な問題がありましたし、英国も往時の地位を失い主要先進国の一つに収まるなど、国情も変化しました。

その様な中で国王となったその日から生涯を国に捧げることを誓い、幾多の困難を乗り越えて国民と国家の象徴として英国内のみならず世界中の人々の尊崇と敬慕の念を集めたエリザベス2世陛下は文字通り20世紀後半以降の現代史そのものであったと言えるでしょう。

今後、各種史資料の公開により、陛下の英国王及び一人の家庭人としての素顔がより明らかにされることになります。そして、こうした取り組みは、われわれにとって現在の英国と国際社会のあり方をよりよく知るための大きな手掛かりとなるのです。

改めてエリザベス2世陛下のご冥福をお祈り申し上げます。

<Executive Summary>
Critical Biography of Her Majesty Queen Elizabeth II (Yusuke Suzumura)

Her Majesty Queen Elizabeth II had passed away at the age of 96 on 8th September 2022. In this occasion we examine the life of the Queen.

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