賭博をするのはダメでも対象になるのはOKの大リーグ
去る3月26日(火)、日刊ゲンダイの2024年3月27日号23面に連載「メジャーリーグ通信」の第159回「賭博をするのはダメでも対象になるのはOKの大リーグ」が掲載されました[1]。
今回は、大リーグにおける賭博との関わりを主に制度面から検討しています。
本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。
賭博をするのはダメでも対象になるのはOKの大リーグ
鈴村裕輔
大リーグの球場には、世界に冠たる大企業から地域に根差した会社まで、様々な業種業態の事業者が広告を出している。
最近特に観客の注目を集めるのがスポーツ賭博の運営企業の広告である。
世界屈指のカジノ外として知られるラスベガスを擁する米国では、賭け事は日本に比べて日常生活の中で身近な存在となっている。
だが、スポーツを対象とした賭博は長らく違法とされてきた。
理由は明白で、賭博の対象となることで八百長が横行したり競技の純粋性が損なわれたりする疑惑が起きるからだ。
実際、1992年に連邦法であるプロ・アマスポーツ保護法(PASPA)が制定され、その時点で州法によってスポーツ賭博を容認していたネバダ、モンタナ、デラウエア、オレゴンの4州以外の全ての州でスポーツ賭博が違法とされた。
ワールド・シリーズを舞台とした八百長事件として世界のスポーツ界の事件史に残る1919年のブラックソックス事件によって存亡の危機に直面したのが大リーグである。それだけに、ブラックソックス事件以降の球界は賭博問題に厳格に対処してきた。
1979年にはウィリー・メイズ、1983年にはミッキー・マントルという球史に残る大選手がカジノ関連企業に職を得ていることが問題視され、一時的ながら球界から追放されている。さらに、1989年には歴代最多安打記録を持つピート・ローズは、野球賭博を行ったことを理由に永久追放処分を受けている。
球界にとっても、独自の規定ではなく連邦法によってスポーツ賭博全般が違法とされたことは心強いものだった。
しかし、財政難に直面した各州は新たな財源を模索する中でスポーツ賭博に着目し、2012年にニュージャージー州がスポーツ賭博の合法化に踏み切る。
ニュージャージー州の動きに対して、大リーグを含む米国四大プロスポーツリーグと全米大学体育協会はPASPAに違反するとして訴訟を起こす。そして、連邦最高裁は2018年にPASPAによるスポーツ賭博の禁止は違憲という判決を下し、状況は一変する。
これ以降、各リーグは選手が自ら行う競技を対象とする賭博に関わることを禁じつつも、スポーツ賭博の運営企業を新たな広告主として迎えるようになったのである。
大リーグ機構も2022年にスポーツ賭博大手のMGMとオフィシャル・パートナー契約を結ぶなど、従来の規制を緩和している。
米国のスポーツ界における「選手が賭博を行うことは制限するが、賭博の対象となることは規制しない」という大きな流れは、今後も止まることはないのである。
[1]鈴村裕輔, 賭博をするのはダメでも対象になるのはOKの大リーグ. 日刊ゲンダイ, 2024年3月27日号23面.
<Executive Summary>
Changes of the Relationships between the MLB and Gambling (Yusuke Suzumura)
My article titled "Changes of the Relationships between the MLB and Gambling" was run at The Nikkan Gendai on 26th March 2024. Today I introduce the article to the readers of this weblog.