頼清徳総統の就任演説の持つ意味は何か
昨日、台湾において頼清徳総統の就任式が行われました。
1996年に総統公選制が実施されて以来、民進党が3期連続で政権を担当するのは初めてのことです。
中国と台湾は不可分であり「一つの中国」を目指す中国寄りの国民党に対し、台湾の自立を志向する民進党から連続して総統が登場することで、中台間の懸隔が広がり、新たな紛争の原因になると考えられるのは無理からぬところです。
実際、台湾の若い世代、特に40歳代以降の人々にとって台湾は台湾であってそれ以外の何物でもないという意識が強いことは例えば留学生の意見を聞くだけでも明らかです。
また、昨日の就任式に際して中国外交部が中国と台湾の統一が歴史の流れであると声明したこと[1]は、台湾内における様々な意見の分立を念頭に置いたものです。
一方、頼総統は就任演説において台湾の自立を強調することを控え、蔡英文前総統が2021年に提起した、台湾と中国が互いに隷属しないことなどを示す「四個堅持」の方針を踏襲することや中国との現状維持を主張するなど、現実的な見解を示しました[2]
これは、一面において立法院において民進党が少数与党であり、行政府と立法府がことなる勢力によって占められるいわゆるねじれ現象が起きているため、例えば軍事費の増額の一つをとっても容易に進めることが出来ないという実情を踏まえたものです。
それとともに、台湾は台湾であるという意識が人々の率直な考えであっても、中国と事を構えてまで実現されることを支持する立場ではないという状況をも視野に入れたのが、頼総統の演説となります。
もちろん、就任演説はあくまで就任式における演説であって、具体的な両岸関係は今後の現実の政治環境によって変わることになりますし、台湾も関係諸国とのあり方を無視して独自の方針を貫くことはできません。
それだけに、これからの台湾のあり方がどのようなものになるのか、大きな利害関係を持つ日本も注視し続けなければならないのです。
[1]台湾統一は「歴史の流れ」. 日本経済新聞, 2024年5月21日朝刊3面.
[2]賴清德就職演說分析:延續蔡英文「四個堅持」但多次提到「中國」,強調民主台灣的世界布局. 報導者, 2024年5月20日, https://www.twreporter.org/a/2024-lai-ching-te-president-inauguration (2024年5月21日閲覧).
<Executive Summary>
What Is the Meaning of Taiwan President Lai Ching-te's Inaugural Address? (Yusuke Suzumura)
Dr Lai Ching-te became the President of Taiwan and made the Inaugural Ceremony on 20th May 2024. On this occasion, we examine the meaning of President Lai's Inaugural Address to prospect the future of Taiwan.
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