『クライスラー変奏曲』について思ったいくつかのこと
去る12月5日(月)から8日(木)まで、NHK FMで特集『クライスラー変奏曲』が放送されました。
これは、今年1月にヴァイオリン奏者のフリッツ・クライスラーが没後60年目を迎えたことを記念し、クライスラーの演奏を紹介しつつその人となりを振り返り、今も燦然と輝く偉大なヴァイオリン奏者の素顔に迫るという企画です。
今回はNHK FMの「変奏曲」の特集に欠かせない音楽評論家の増田良介さんと、神奈川フィルハーモニー管弦楽団首席ソロ・コンサートマスターの石田泰尚さんを迎え、クライスラーの来歴や音楽史上の位置づけとともに、実演の面からのお話が紹介されました。
番組の中では、クライスラーの初期の録音から晩年の演奏までが紹介されるとともに、数多くの音楽家との交流や弟でチェロ奏者のヒューゴ・クライスラーとの共演の様子なども取り上げられ、聞き応えのある内容となりました。
例えば、1926年にレオ・ブレッヒの指揮とベルリン国立歌劇場管弦楽団の伴奏により録音したベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲は、細やかに旋律を揺らしつつ一つひとつの音を艶やかに磨き上げるクライスラーの弓遣いがよく分かる演奏で、4日間の特集の最後に配置するという、優れた構成でした。
これに加えて、重要であったのは、「クライスラーの音楽のことは知っていても、その人となりについてはよく知らない」という石田さんの存在です。
すなわち、「クライスラーが作曲した作品は短いものが多いものの起承転結があるから、そこをしっかりと演奏しないと聞く方も拍子抜けしてしまう」「クライスラーは楽天家だったというが、自分も楽天家。こういう仕事なので、今日できないのは残念に思うことはあるが、もう次の公演に向けて準備するということで」といった趣旨の石田さんのお話は、実演家ならではの視点に基づくものであり、番組により一層の深みを与えました。
また、「クライスラーの音楽や演奏は、昔ながらの喫茶店で聞きたい」という石田さんの一言も、クライスラーの音楽の魅力を象徴的に伝えるものでした。
一人の音楽家を4回ないし5回にわたって取り上げる「変奏曲」の特集は、対象となった人物の音楽と人間性とをよりよく知るための重要な機会を提供します。
4日間にわたる『クライスラー変奏曲』もこれまでの特集と同様に充実した内容となり、次にどのような音楽家が特集されるかを期待させる放送となりました。
<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of a Radio Programme "Variations of Fritz Kreisler" (Yusuke suzumura)
The NHK FM Radio broadcasted a feature programme "Variations of Fritz Kreisler" from 5th to 8th December 2022. In this occasion I express miscellaneous impressions of the programme.