政界と球界における ガラスの天井を破った女性の立ち位置

去る3月15日(月)、日刊ゲンダイの2021年3月16日号26面に連載「メジャーリーグ通信」の第88回「政界と球界における ガラスの天井を破った女性の立ち位置」が掲載されました。

今回は2020年11月に米国の政界と球界で「ガラスの天井」を破ったとされるカマラ・ハリス氏とキム・アン氏の事績を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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政界と球界における ガラスの天井を破った女性の立ち位置
鈴村裕輔

ヒラリー・クリントンが「ガラスの天井は誰かが打ち破る」という言葉とともに米国大統領選挙での敗北を宣言したのは2016年11月のことだった。

知名度と実績で群を抜くクリントンをもってしても大統領の座を手に出来なかったことで、米国の政界には相当厚い「ガラスの天井」があると思われた。

しかし、4年後の2020年11月、民主党の大統領候補ジョー・バイデンが副大統領候補に上院議員のカマーラ・ハリスを指名し、大統領選で現職大統領である共和党候補のドナルド・トランプを下した。これにより、米国史上初の女性副大統領が誕生したのだ。

一方、この大統領選挙から10日後の11月13日、マーリンズは新たなゼネラル・マネージャーに大リーグ機構副社長のキム・アンを起用した。

1998年に29歳でヤンキースのゼネラル・マネージャー補佐となったアンは、マーリンズの最高経営責任者であるデレク・ジーターとは旧知の仲だった。

礼を尽くして招聘した人物であっても実績が伴わなければ半年で地位を失うのが、大リーグだ。そのような中で、シカゴ大学を卒業して1990年にホワイトソックスに採用されて以降一貫して球界で経験を積んできたという一点だけでも、アンの能力の高さが分かる。

しかも、アンをヤンキースに招いたのが、前任のゼネラル・マネージャー補佐であり、30歳という当時史上2番目の若さでゼネラル・マネージャーとなったブライアン・キャッシュマンであった。「30歳のGMに29歳のGM補佐」という取り合わせは、アンに対する周囲の期待がどれだけ強かったかを示している。

このように見れば、「米国史上初の女性副大統領」となったハリスと「北米プロスポーツ史上初の女性ゼネラル・マネージャー」のアンとは、あたかも「ガラスの天井」を壊す象徴かのようである。

だが、安定感はあっても大衆的な支持に乏しいバイデンが、急進的な政策によって支持を集めるハリスの人気を取り込む目的で副大統領の人選を行った点には注意が必要だ。

もちろん、マーリンズも「女性GM誕生」という話題によって人々の注目を集めるという意図がなかったわけではない。

しかしながら、毎年のように主力選手を放出して戦力が安定せず戦績も低迷しがちなマーリンズにとって、球団の体質を改めることは急務であり、話題作りのための人事を行うゆとりはなかった。

しばしば閑職ともされる米国副大統領と、すぐに結果を求められるゼネラル・マネージャーを比べれば、ハリスとアンとを「ガラスの天井を破った女性」とひとくくりにすることは、二人の置かれた立場の違いを見失わせる。

「ガラスの天井」の形状は様々なのである。
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[1]鈴村裕輔, 政界と球界における ガラスの天井を破った女性の立ち位置. 日刊ゲンダイ, 2021年3月16日号26面.

<Executive Summary>
What Is a Glass Ceiling in the MLB? (Yusuke Suzumura)

My article titled "What Is a Glass Ceiling in the MLB?" was run at The Nikkan Gendai on 15th March 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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