『鬼滅の刃』の連載終了に際して思ったいくつかのこと

去る5月18日に発売された『週刊少年ジャンプ』の2020年第24号で、吾峠呼世晴さんの漫画『鬼滅の刃』の連載が終了しました。

大正時代という設定が作品の中で有効に活用されていないことや、物語が鬼殺隊と鬼との間の話に重心が置かれ、鬼と人間との関わりの描写が比較的単調であったことなどには、ある種の物足りなさを覚えたものです。

その一方で、2016年第11号に第1話が掲載された際に、日常の平穏な生活は想像できないほど容易に崩れ去るという物語の根幹となる点を余すところなく描いたことは、「第1話で全力を出す作品は長続きする」という私の経験則に照らしても好ましい特徴であり、回を追うごとに魅力ある作品に成長したという印象でした。

また、刀を主たる武器とするという鬼殺隊の設定から登場人物の手元に焦点を置く描写が多い中で、特に親指の付け根の重量感が丁寧に表現されていたことなどは、作者の力量の確かさを示していたように思われます。

あるいは、「平凡な生活を送っていた主人公がふとしたきっかけで新しい世界に飛び込み、幾多の困難を経て成長し、活躍する」という展開と、「友情、努力、勝利」という、『週刊少年ジャンプ』の持ち味の一つである要素を踏まえた構成も、他誌ならぬ同誌での連載を可能にしたと言えるでしょう。

これに加えて、鬼殺隊と鬼舞辻無惨の配下の鬼たちとの闘いにおける凄惨な描写に留まらず、主人公の竈門炭治郎や他の登場人物たちが時折見せる愉快な一面は、読者の緊張を和らげるとともに、本作の魅力の幅を広げたと言えるでしょう。

作品の序盤で、重傷を負った竈門炭治郎や我妻善逸らが治療を受けた蝶屋敷で看病に励むきよ、すみ、なほの3人と交わす軽妙なやり取りや、蝶屋敷を離れる竈門炭治郎に3人が贈る籠から溢れんばかりの握り飯などは、思わず読み手が頬を緩める場面の代表例です。

このような真剣さの中に愛嬌を織り交ぜた登場人物たちだけに、例えば挿話的に取り上げられる「柱」の過去などを副次的な逸話として敷衍したり、鬼舞辻無惨の来歴をより踏み込んで描けば、作品そのものは少なくともあと3年は連載を続けることが出来たかも知れません。

しかし、『週刊少年ジャンプ』の編集の方針は、2000年代半ばから2010年代半ばにかけての長期連載の作品を軸とする方法から、実質的に人気のある作品でも5年を超える連載は行わないあり方へと転換したように思われます。

長期にわたり連載される作品によって読者を安定的に維持する方法は、他面において連載の長期化により新規の読者が参入しにくくなる弊害を生じやすくなるため、連載期間を短期化させることで作品の回転を早くするとともに途中から読んでも話に追い付けるという利点をもたらします。

この点を考えれば、枝葉となる挿話を極力排除し、物語の本筋の流れを維持した展開は、編集方針にかなうものであったでしょうし、作品そのものの芯を太くしたと言えます。

205回にわたり緩急を付けながら、ほとんど停滞をもたらすことなく物語を進めた吾峠呼世晴さんの手腕は見事なものでした。

その意味でも、『鬼滅の刃』は、間違いなく2010年代後半の『週刊少年ジャンプ』を支えた重要な作品の一つであろうと思われるところです。

<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of "Kimetsu no Yaiba" (Yusuke Suzumura)


A manga Kimetsu no Yaiba (literally "Blade of Demon Destruction") written and illustrated by Koyoharu Gotoge run in The Weekly Shonen Jump ended on 18th May 2020. On this occasion I express miscellaneous impressions of this series.


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