「都立学校の完全再開」の問題点は何か
今日から、新型コロナウイルス感染症の拡大により、登校時間や児童、生徒などの数を制限する分散登校を続けていた東京都立学校が全面的に再開しました[1]。
都内の新型コロナウイルス感染症の発症者数は依然として全国で最も多く、感染の拡大の終息の見通しは不明であるものの、5月25日(月)に新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が解除されたことや、3月から4月にかけての感染者数の急速な拡大が鎮静化の傾向を示していることなどから、「全面再開」の判断が下されました。
また、「全面再開」に際しては東京都教育委員会が「感染症対策と学校運営に関するガイドライン」を改訂し、公表しました[2]。
すなわち、本ガイドラインの中において、東京都教育委員会の藤田裕司教育長は次のように述べています。
学校の教育活動を再開するに当たっては、これから一定期間、新たなウイルスとともに社会で生きていかなければならないという認識に立ち、感染症対策を講じながら、幼児・児童・生徒の健やかな学びの保障との両立を図り、学校の「新しい日常」を定着させていくことが必要です。
このような指摘は、「新常態」や「ウィズコロナ」といった言葉が用いられている現在の状況に照らせば、ごく標準的な内容であると言えるでしょう。
一方で、ガイドラインには「感染症対策の徹底」や「教育活動を実施する上で必要な感性症対策」、「感染症対策を徹底した段階的な教育活動」といった項目が設けられ、基本的な考え方が示されているものの、「各学校においては、感染症対策を徹底して行うとともに、学校とオンライン学習等による家庭学習を組み合わせた教育活動を工夫して実施していただきたいと思います」[2]という藤田教育長の発言を反映するかのように、具体的な対応策については各校に任せられているのが実情です。
確かに、幼稚園から高等学校まで、教育の内容も在籍者の特徴も異なる都立学校に一律の基準を設けて指針とすることは現実的ではないかも知れません。また、各校の実情を最も適切に把握しているのが一人ひとりの教職員であるなら、総論的に方針を定め、個別の状況について臨機応変に対処する方が現実的と言えるでしょう。
また、大学生非常勤職員を配置するなどして、教育活動の継続も行われてきました。
しかしながら、実際には金銭的、物質的な支援はもとより、人的な手当ても不十分なまま学校が「全面再開」となったことで、各校の教職員の負担が増しています。
さらに、具体的な対応策が各校に任されたために、例えば管理職や他の教職員の取り組みいかんにより予防策に濃淡が生じるであろうことは、学校の「完全再開」後に感染者が増加したたの自治体の事例[1]からも推察されるところです。
このように考えれば、「都立学校の完全再開」は喜ばしい出来事であるとともに、東京都教育委員会や東京都が設置者としての務めを必ずしも十全に果たしていないことが推察されます。
それだけに、幼児、児童、生徒の安全をどのように確保するかという点に人々の関心が集まる中で、いかにして教職員の負担を軽減してゆくかも、重要な取り組みとなることでしょう。
[1]毎日学校 教員余裕なく. 日本経済新聞, 2020年6月29日夕刊9面.
[2]新型コロナウイルス感染症対策と学校運営に関するガイドライン【都立学校】~学校の「新しい日常」の定着に向けて~改訂版. 東京都教育委員会, 2020年6月19日, https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2020/files/release20200619/guidelines01.pdf (2020年6月29日閲覧).
<Executive Summary>
Is "Restarting of the Tokyo Metropolitan School" Good News? (Yusuke Suzumura)
The Tokyo Metropolitan schools restart to conduct full-scale educational activities on 29th June 2020. It seems good news to take the first step to maintain their education, but is not the best information, since teachers and staffs of each school have to accomplish measurements by their own efforts.