NHK交響楽団の「コンサートマスターの新体制」について思ういくつかのこと
本日、NHK交響楽団が2024年4月からのコンサートマスターの新体制を発表し、コンサートマスターであった伊藤亮太郎氏の退任とゲスト・コンサートマスターであった郷古廉氏の第1コンサートマスターへの就任及び川崎洋介氏のゲスト・コンサートマスターとしての招聘を発表しました[1]。
これにより、2024年度のNHK響のコンサートマスターは、特別コンサートマスターである篠崎史紀氏を含めた3人体制となります。
篠崎氏の退任後空席であった第1コンサートマスターの座を郷古氏が引き継いだこと、また堀正文氏が務めたソロ・コンサートマスターは2015年2月の退任後も空席のままであることは、今回の人事の特徴的な点と言えるでしょう。
あるいは、2023年6月に初共演した川崎氏をゲスト・コンサートマスターとしたことは、聞き手の思う以上に演奏者にとって良い客演であったことを物語ります。
ところで、NHK響のゲスト・コンサートマスターというと川崎氏の前任である郷古氏、さらには2023年3月に退任した白井圭氏と、近年では日本人の演奏家が務めているものの、以前はライナー・キュッヒル氏を招いていましたし、遡ればペーター・ミリング氏、カール・ズスケ氏と、斯界を代表する世界的な奏者を招いていたことが思い起こされます。
キュッヒュル、ミリング、ズスケの各氏はそれぞれ楽団との相性が良く、演奏者を巧みに牽引した姿が思い出深いものです。
一方、近年の3氏は名声の点で及ばないものの、時に力強く、時に内側から盛り立てるように演奏者と関わる様子が印象的です。
こうした違いはコンサートマスターとしての各氏の取り組み方の違いであるとともに、NHK響が外国の著名な演奏者の薫陶を受ける時期を経て、自らコンサートマスターを育てる段階に達したことを推察させます。
その意味で、新たな顔触れとなるNHK交響楽団のコンサートマスター陣がどのような形で演奏者と関わるか、今後の演奏が一層注目されます。
[1]今後のコンサートマスターの体制について. NHK交響楽団, 2024年3月4日, https://www.nhkso.or.jp/news/20240304.html (2024年3月4日閲覧).
<Executive Summary>
Miscellaneous Impressions of the New Lineup of the Concertmasters of the NHK Symphony Orchestra (Yusuke Suzumura)
The NHK Symphony Orchestra annoucnes the new lineup of the concertmasters on 4th March 2024. On this occasion, I express my miscellaneous impressions of the concertmasters of the orchestra.