韓国政府による「元徴用工問題の解決策の発表」は日韓関係の新たな一歩となるか
昨日、韓国政府はいわゆる元徴用工問題について、韓国政府傘下の日帝強制動員被害者支援財団が原告への賠償を肩代わりする解決策を発表するとともに、日本政府は1998年の日韓共同宣言など過去の政権が表明した「反省とおわび」の立場を継承することを改めて確認しました[1]。
いわゆる元徴用工問題では、2018年に新日鉄住金と三菱重工業に対する賠償金の支払いの判決が確定しており、賠償問題は1965年の日韓請求権協定によって解決済みであり、韓国側による判決は国際法違反と主張する日本側との間で軋轢が生じていました。
今回の解決策は昨年発足した尹錫悦政権が問題に取り組んだ成果であるとともに、ロシアによるウクライナへの侵攻や北朝鮮による長距離ミサイルの発射実験の頻度の増加など、東アジアにおける安全保障環境が急速に悪化したことも、両国の歩み寄りを促しました。
また、2015年の日韓合意の際に外務大臣であった岸田文雄首相にとっては、自らの手でいわゆる元徴用工問題によって悪化した日韓関係の改善に道筋をつけられるとすれば、外交上の大きな成果となるでしょう。
しかし、「不可逆的」とされた日韓合意が革新派の文在寅政権下で空文化したように、韓国においては保革の政権交代が対日政策を一変させることは珍しくありません。
そのため、保守派である尹政権が示した今回の解決策も、今後革新派政権の誕生によって内容が変更されたり、新たな訴訟に繋がる可能性は否定できません。
あるいは、保守政権であっても李明博政権が支持率の低下に直面して日本に対して強硬な姿勢を示すようになったことからも、政権の特徴いかんにかかわらず韓国の対日政策は絶えず動揺することも明らかです。
一方、日本も、地理的にも歴史的・文化的にも最も近く、国際政治における価値も共有している韓国に対し、対等な関係ではなく優越感をもって臨むかのような姿勢を示す政治家がいることも事実です。
そうした態度を持つ者は国会の場においては少数であるかもしれないものの、相手国に対する敬意を欠いた中での外交が自国の利益に繋がらないものであることは、論を俟ちません。
もとより日韓双方がそれぞれ固有の事情を抱える中での今回の解決策は、両国の外交当局者の尽力の成果です。それとともに、緊密に連携すべき2つの国に間隙が生じたままであれば、東アジア地域の安定はおぼつかないものとならざるを得ません。
その意味でも、今回の解決策を契機として、韓国側には政権の事情にかかわらず安定した対日政策を維持するとともに、日本側には韓国への経緯を絶えず失わずに一層の連携を深めることが求められるのです。
[1]日韓関係、正常化へ前進. 日本経済新聞, 2023年3月7日朝刊1面.
<Executive Summary>
Is the New Plan for the "Voluntary Private Sector Issues" a New Step for Better Relationships between Japan and Korea? (Yusuke Suzumura)
The South Korean Minister of Foreign Affairs annouces that they will apply the new plan to solve the "Voluntary Private Sector Issues" on 6th March 2023. On this occasion, we examine a meaning of the plan to promote better relationships between Japan and Korea.