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かがくいひろしの世界展

昨日、八王子市夢美術館において、かがくいひろしの世界展を鑑賞しました。

本展は「だるまさん」の連作で知られる絵本作家のかがくいひろしの生涯と足跡に焦点を当てた初の本格的な回顧展です。

東京学芸大学を卒業後、千葉県の特別支援学校で教員として勤務するとともに、人形劇や立体作品の制作と発表を行い、2005年に『おもちのきもち』で絵本作家となったのがかがくいひろしです。

その後は2007年の『だるまさんが』が企画から4か月で出版されるという異例の速さでブロンズ社から刊行されて代表作となり、独特の画風と構成、そして愉快な視点が多くの読者を獲得し、2009年に54歳で急逝してからも現在の絵本界を代表する存在として広く親しまれているのは周知の通りです。

わが家にも『だるまさんが』『だるまさんの』『だるまさんと』の「だるまさん」三部作があり、発想の斬新な筋立てに長男は微笑み、次男は書かれた言葉の音の響きの軽やかさにいつも身体を動かしながら耳を傾けています。

一方、かがくいひろしの登場が2005年であり、私自身が絵本に親しむ時期でも絵本を購入する頃でもなかったので、一連の作品を知るようになったのは長男が誕生した2020年10月以降のことでした。

それだけに、『だるまさんが』を初めて手にした時はかこさとしの『だるまちゃんとてんぐちゃん』の新作かと思ったもの事実であり、作者がすでに物故していたことも後になって知ったのでした。

今回の展覧会では、そのようなかがくいひろしが4人兄弟の末っ子としてどのように育ったのかという過程や東京学芸大学で美術を専攻していた頃の習作、あるいは教員時代に生とともに手掛けた作品など、その人となりや絵本以外の創作活動についても丹念に取り上げた点が重要でした。

もとより、誰もが知る歴史的な大画家の展覧会であればこうした展示は通常のものであり、むしろ大成する前後での画風の変化や作風の変遷を知ることは、対象となる画家の作品をよりよく理解するためにも不可欠となります。

しかし、教員を辞して専業の絵本作家となってからすい臓がんで逝去するまでの期間が4年と短いかがくひひろしについてこうした重層的な展示がなされたことは、それだけその活動が多岐にわたることを示すものに他なりません。

実際、『だるまさんが』を手掛けた際の構想ノートを見ると、いかにしてだるまさんの特徴的な姿が作り出されたかが分かるとともに、油絵を専門としつつ彫塑にも造詣の深かったかがくいひろしの創作活動が遺憾なく発揮されていることが分かります。

こうした展示は、しばしば子ども向けと思われがちな絵本も一つの芸術であり、決して日々の生活の中で消費されるものではないことを示します。

それとともに、「だるまさん」の新作を複数にわたって構想し、あらすじもまとまっていながら不帰の客となったことは、われわれ読者以上にかがくいひろしにとって大いなる無念であったであろうことが、展示を通して実感されました。

そして、鑑賞者が親子連れだけでなく中高年の団体もいるところに、かがくいひろしの活動の幅の広さや作品の持つ普遍性が窺われました。

このように、本展はかがくいひろしの事績を辿ることで絵本の持つ可能性を鑑賞者に伝えるとともに、様々な課題はあろうものの、「だるまさん」の新作が上梓されることをも期待させるものです。

<Executive Summary>
The World of Kagakui Hiroshi (Yusuke Suzumura)

The Exhibition "The World of Kagakui Hiroshi" is held at the Hachioji Yume Museum on 14th September to 4th November 2024 and we went to the museum on 3rd November. It is a remarkable exhibition for us to understand the achievements of Kagakui and the possibility of picture book.

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