今後の労使交渉を左右する大リーグ選手会副委員長の解任問題
去る4月23日(火)、日刊ゲンダイの2024年4月24日号23面に連載「メジャーリーグ通信」の第161回「今後の労使交渉を左右する大リーグ選手会副委員長の解任問題」が掲載されました[1]。
今回は、今年3月に起きた大リーグ選手会副委員長のブルース・マイヤー氏の解任問題が今後の労使交渉に与える影響を検討しています。
本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。
今後の労使交渉を左右する大リーグ選手会副委員長の解任問題
鈴村裕輔
今年3月、大リーグ選手会の一部の執行役員が副委員長のブルース・マイヤーの解任と選手会の元弁護士であるハリー・マリノの起用を委員長のトニー・クラークに求めた。
マイヤーは2018年にNHL選手会から移籍し、副委員長に就任した。
新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した2020年には、選手会の責任者として経営者側との交渉に臨んでいる。
試合数を削減するとともに選手の年俸も試合数に連動して減額するという経営者側の案を拒否し、最終的に試合数は60試合となったものの年俸を全額保証させることに成功する。
また、2021年の労使協定の改定の際には経営陣による施設封鎖を受けながら、最低年俸額の引き上げや贅沢税の上限額の引き上げなどの選手側に有利な条件での妥結を導いた。
球団経営者に対する強硬な姿勢と妥協を排した交渉から、マイヤーはしばしば好戦的と称される。
そのようなマイヤーが招聘されたのは、2013年に委員長となったクラークが交渉事を得意としておらず、2016年の労使交渉でも経営者側に有利な内容を受け入れたという過去があるためだった。
すなわち、選手の一部からクラークはあまりに妥協的であり、解任を画策する動きがあったのである。
委員長の解任は実現しなかったものの求心力が低下したクラークは、労使交渉の経験を持つ弁護士を要職に迎えることで事態の打開を図った。
こうして、1986年に名門法律事務所のワイル・ゴッチェル&マンジェスに入所して労使交渉を担当し、後にNFL、NBA、NHLの選手組合で十分な経験を積んだマイヤーが副委員長となったのだった。
だが、一部にはクラークとマイヤーが有力な代理人スコット・ボラスと親密な関係にあり、ボラスと契約する選手が有利な契約を結んでいるという批判があった。そうした不満が今回の騒動をもたらしたのである。
クラークはマイヤーの解任を拒否したとはいえ、他の役員がこのまま引き下がるとは思えない。
もしマイヤーが解任されれば、マイナー・リーグ経験者でマイナー・リーグの選手会を結成したものの労使交渉の経験のないマリノを相手とする方が経営陣にとっては有利となる。
それだけに、マイヤーの処遇が今後の労使交渉に大きな影響を与えることになるのである。
[1]鈴村裕輔, 今後の労使交渉を左右する大リーグ選手会副委員長の解任問題. 日刊ゲンダイ, 2024年4月24日号23面.
<Executive Summary>
Players' Call for Ouster of MLBPA Deputy Director Bruce Meyer Has a Remarkable Influence for the Future Labour-Management Negotiations (Yusuke Suzumura)
My article titled "Players' Call for Ouster of MLBPA Deputy Director Bruce Meyer Has a Remarkable Influence for the Future Labour-Management Negotiations" was run at The Nikkan Gendai on 23rd April 2024. Today I introduce the article to the readers of this weblog.