【追悼文】高階秀爾先生について思い出すいくつかのこと

去る10月17日(木)、美術史家の高階秀爾先生が逝去されました。享年92歳でした。

高階先生がフランスへの留学を経て国立西洋美術館に勤務され、フランス政府から日本へ寄贈返還された松方コレクションの調査と研究に組まれたほか、ルネサンスから近現代に至る西洋美術史について研究し、その成果を研究書だけでなく一般書や新聞や雑誌の評論の形で広く社会に還元することで美術の魅力を人々に伝えられたことは周知の通りです。

また、斯界の第一人者として2012年に文化勲章を受章されるなど、戦後の日本の美術研究や評論を牽引する存在でもありました。

ところで、私は2011年9月から2012年8月までサントリー文化財団の鳥井フェローを拝命しており、財団の主催する種々の研究会に陪席して知見を広める機会を頂戴しました。

そして、この時期には財団の研究会の一つとして三浦雅士が主査を務める21世紀日本の芸術と社会を考える研究会が設置され、芳賀徹先生と高階先生が参加していました。

私が出席した各種の研究会の一つにこの21世紀日本の芸術と社会を考える研究会がありました。

毎回刺激に満ちた研究会であり、概要の取りまとめを担当した、2011年10月28日(金)に開催された第2回では当時広島大学にいらした河本真理先生の報告「曙光と黄昏--抽象表現主義以後の戦後美術をめぐって」を受け、三浦先生、芳賀先生、そしてオブザーバーの山崎正和先生が真摯に意見を交わされる中で、議論を方向付けたのが高階先生であったことは、大変印象深いものでした。

あるいは、片山杜秀先生が報告された2012年6月4日(月)の研究会「戦前・戦後の日本の音楽」でも、同じ時期の日本と世界の美術の潮流を踏まえつつ、当時の世相や人々の生き方まで踏み込んだ議論はとりわけ充実したもので、陪席したことそのもが多いな勉強となったものです。

明晰で達意の文章を世に数多く送り出された高階先生の、そのまま文字に残せば一篇の評論になるようなお話と、穏やかな語り口の中に話題の本質を鋭く射貫く迫力とは、今思い出しても感慨深いものです。

多年のご指導に改めて深謝しつつ、高階秀爾先生のご冥福をお祈り申し上げます。

<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Professor Emeritus Shuji Takashina (Yusuke Suzumura)

Professor Emeritus Shuji Takashina had passed away at the age or 92 on 17th October 2024. On this occasion, I remember miscellaneous memories of Professor Takashina.

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