安倍晋三首相の「ヤジ発言の謝罪」が持つ意味は何か

本日、衆議院予算委員会の集中審議において、2月12日(水)に行われた立憲民主党の辻元清美幹事長代行の質問後に「意味のない質問だよ」と不規則発言を行ったことについて、安倍晋三首相が謝罪し、「辻元委員に対し、質疑終了後、不規則な発言をしたことをおわびする。今後、閣僚席からの不規則発言は厳に慎むよう、首相として身を処していく」と述べました[1]。

安倍首相の不規則発言については野党が反発し、2月13日(木)に予定されていた衆院予算員会の一般質疑の開催が見送られたほか、公明党の北側一雄副代表が「互いに節度を持った形での発言であってほしい」と述べ、自民党の伊吹文明元衆院議長も「お互いにみっともない」と指摘するなど、与党内からも苦言が呈されていました[2]。

こうした状況を受けて自民党の森山裕国会対策委員長と立憲民主党の安住淳国対委員長が協議し、本日の衆院予算委員会で集中審議を開き、安倍首相が謝罪することで合意しただけに[3]、安倍首相の与野党の第一党による既定の方針に従ったものであった言えるでしょう。

周知の通り、安倍首相はこれまで国会での審議においてしばしば不規則発言を行い、与党の顰蹙と野党の反発を受けてきました[4]。

その意味で、長年にわたる安倍首相による不規則発言は内閣総理大臣の品位に関わるものであると考えることが出来ます。

一方で、何故安倍首相は野党が反発する類の不規則発言を繰り返し行うのでしょうか。

このような事態は、一面において「不規則発言をしなければ気が済まない」といった気質の問題であることを示唆するとともに、他面においては「少しくらい野党が反発することを言っても大丈夫」、あるいは「これくらい言っても政権の基礎は揺るがない」という考えがあることが推察されます。

実際、今回の不規則発言についても「今国会の序盤戦は、桜を見る会など政権の疑惑に焦点が当たったが、野党の追及は決定打を欠き、国会審議はおおむね与党ペースで進んできた。政府・与党内では「ヤジは謝罪すれば尾を引く問題ではない」」という指摘がなされています[3]。

このような指摘は、野党側の「存在感の薄さ」と安倍首相に「これくらい言っても政権の基礎は揺るがない」という考えのあることを傍証するものです。

その意味で、「数々の発言は、議会制民主主義を冒涜するものだ。予算の審議を要請している行政府の長としても看過しがたい」という立憲民主党の福山哲郎幹事長の批判[3]はもっともながら、野党側が安倍首相に不規則発言を許す隙を与えないほどに実力をつけることも、重要であると言えるでしょう。

[1]首相、ヤジ発言を謝罪. 日本経済新聞, 2020年2月17日夕刊3面.
[2]首相ヤジで質疑見送り 衆院予算委. 日本経済新聞, 2020年2月14日朝刊4面.
[3]首相ヤジ「謝罪」で幕引き. 読売新聞, 2020年2月14日朝刊4面.
[4]鈴村裕輔, 安倍首相の「反省発言」は何を意味するか. 2017年6月20日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/746cbac172bfad72f57ae152aa0df51a?frame_id=435622 (2020年2月17日閲覧).


<Executive Summary>
What Is a Meaning of Prime Minister Shinzo Abe's Apology for His Irregular Remark at the Diet? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Shinzo Abe apologised his irregular remark on 17th February 2020. It implies that Prime Minister Abe's arrogant attitude and the opposition parties' powerlessness, since he has made irregular remarks at the Diet.


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