里中満智子さんの「私の履歴書」が伝える日本の漫画史の一断面と漫画の未来
今日、漫画家の里中満智子さんが担当した2022年5月期の日本経済新聞の連載「私の履歴書」が終了しました。
物心がつく前に漫画に出会い、小学校2年生から貸本屋に通い始め、中学生のころから漫画家になることを考え始めた里中さんが1964年に16歳で職業漫画家となるまでの様子と、その後の歩みが具体的な逸話とともに紹介された今回の連載は、1950年代から現在に至るまでの日本の漫画史の一断面を活き活きと描き出します。
そのような中でもとりわけ印象的であったのは、世の中の漫画を守りつつ性別に関係なく取り組める仕事として漫画家を選んだという逸話で、少女漫画の主人公の素晴らしさからちばてつやさんを長年女性と思っていたという点[1]とあわせて、漫画は男女の違いにかかわらず描けるという里中さんの考えを象徴するものでした。
また、1991年にNHK教育テレビで放送された『趣味百科』の「少女コミックを描く」が紹介されたこと[2]は、当時の放送を毎回視聴した私としても懐かしく、嬉しいものでした。
一方、漫画家の権利の擁護や待遇の向上に関するお話[3]は、作品の発表の形態や職業漫画家になるための経路の多様化が進む現在だからこそ重要さが一層増すものであり、一般の読者にとって意義ある視点を提供するものと言えるでしょう。
連載第1回目に「少々理屈っぽいものになるかもしれない」[4]という但し書きがあった中で、毎回朗らかさを失わず、しかも5回の手術を経て現在も第一線で活躍する様子は微笑ましく、少年漫画に比べて原稿料が上がりにくい少女漫画の状況をどのように変えたかは興味深いものでもありました。
それだけに、一日も早い単行本化と、より多くの読者の手元に里中さんのお話が届くことが待ち望まれます。
[1]里中満智子, マンガ家を志す. 日本経済新聞, 2022年5月6日朝刊24面.
[2]里中満智子, 教える仕事. 日本経済新聞, 2022年5月24日朝刊36面.
[3]里中満智子, 後輩たちへ. 日本経済新聞, 2022年5月30日朝刊40面.
[4]里中満智子, 考える少女. 日本経済新聞, 2022年5月1日朝刊28面.
<Executive Summary>
Professor Machiko Satonaka and Half Her Life Seen from "My Résumé" (Yusuke Suzumura)
Professor Machiko Satonaka wrote My Résumé on the Nihon Keizai Shimbun from 1st to 31st May 2022.