「G7共同宣言での東京オリパラ開催の支持」はいかなる意味を持つか
6月11日(金)から6月13日(日)まで英国コーンウォールで行われていた主要7か国(G7)首脳会議では、会議最終日に共同宣言を発表しました[1]。
共同宣言では、新型コロナウイルス感染症対策のほか、国際協力や多国間主義の重要性の強調、気候変動問題への対応、台湾海峡の平和と安定の維持など70の項目が挙げられ、結語として東京オリンピック・パラリンピックの開催を支持する旨が記されました[2]。
G7首脳会議の共同宣言の中に「東京オリパラの開催支持」の文言が記載されたことは、菅義偉首相にとっては「国際公約だから」とG7を一種の「外圧」として活用する機会を得たことになります。
これは、「オリパラ開催」を政権への支持を高めるための手立てと考え、9月の自民党総裁選挙前までに解散総選挙を行って党内の求心力も維持しようとする菅首相にとっては大きな前進といえるでしょう。
一方で、日本国内では緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発令されている地域があり、宣言や措置の解除後も事態がどのように推移するか不透明な状況にあります。
それにもかかわらず、「東京大会を何としても成功させなければならないとの思いだ。しっかりと開会し成功に導かないと決意を新たにした」[1]という菅首相の発言は、一度開催を確定させれば状況のいかんにかかわらず大会の遂行そのものが最優先されることを推察させます。
諸外国においては、依然として感染が拡大している地域やワクチンの調達が困難な地域もあります。
また、外国からの一般の観客の観戦を禁止し、各国・地域の選手団の役員や関係者の人員も削減するなど、すでに東京オリンピック・パラリンピックは従来通りの形式で開催されないことは明らかです。
それだけに、「新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の団結の象徴」[2]として大会を位置付けることは、かえって各国・地域の事情をないがしろにし、国際社会に無用の分断を招きかねません。
しかも、もし大会を契機として日本国内やG7各国内で新型コロナウイルス感染症が再び拡大しても、各国首脳が自国民に詫びるはずもありません。
結語の中に開催の支持が記されたことと合わせて、今回の支持表明の一文は、日本への外交辞令の域を出ないものであることが分かります。
その意味で、確実な開催を急ぐ菅首相は今回の共同声明によって取り得る選択肢をかえって狭めてしまっており、「大会の開催に向けて各国及び関係諸機関と緊密に連携する」といった表現にとどめておくことが望ましかったと言えるでしょう。
[1]G7宣言「台湾海峡」明記. 日本経済新聞, 2021年6月14日夕刊1面.
[2]Carbis Bay G7 Summit Communique (PDF, 430KB, 25 Pages). UK Government, 13th June 2021, https://www.g7uk.org/wp-content/uploads/2021/06/Carbis-Bay-G7-Summit-Communique-PDF-430KB-25-pages-5.pdf (accessed on 14th June 2021).
<Executive Summary>
Does the G7 Summit Communique Support the Tokyo Olympics and Paralympics? (Yusuke Suzumura)
The G7 Cornwall Summit was held on 11th through 13th June 2021 and pressed the G7 Summit Communique at the end of the conference. It shows a position to advocate the Japanese Government to hold the Tokyo Olympics and Paralympics. However it might be a kind of diplomatic language, since they have no responsibility and are only a guest of the Games.