メジャーが五輪に冷淡なこれだけの理由

去る6月28日(月)、日刊ゲンダイの2021年6月29日号27面に私の連載「メジャーリーグ通信」の第95回「メジャーが五輪に冷淡なこれだけの理由」が掲載されました。

今回はオリンピックの野球競技と大リーグの関係を検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

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メジャーが五輪に冷淡なこれだけの理由
鈴村裕輔

「大谷とトラウトの対戦を想像すれば、これ以上の場面はない」

フィリーズの中心打者ブライス・ハーパーが昨年5月に行った発言は、オリンピックへの選手の派遣に消極的な大リーグ機構を批判するものだった。

今年開催予定の東京大会で3大会ぶりに正式種目となったものの、2024年のパリでは採用されず、2028年のロサンゼルス大会での実施も不透明というのがオリンピックにおける野球の立場だ。

1992年のバルセロナ大会にNBAが選手を派遣し、マイケル・ジョーダンやマジック・ジョンソンら「ドリーム・チーム」の活躍によってバスケットボールの魅力を人々に伝えたことを考えれば、「世界の球界の最高峰である大リーグの選手が出場しないのは、野球を世界に普及させようとする大リーグ機構の戦略に矛盾する」という趣旨のハーパーの指摘にも一理あることが分かる。

一方、機構側からすれば、たとえ4年に1度とはいえ選手の派遣を認めて公式戦を中断することは難しい。

何故なら、例年は9月末から10月第1週に終わるレギュラーシーズンの日程を延長するか、ダブルヘッダーや連戦の数を増やすかして所定の日程で終わらせなければ、NFLやNBAなど競合する他のプロリーグの公式戦と時期が重複し、野球への関心の低下が懸念されるからである。

大リーグ機構が選手会と協力し始めたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の開催時期が3月なのは、公式戦の日程変更への機構のためらいを象徴的に示している。

球団経営陣がオリンピックに消極的な理由もWBCの場合と同じで、「選手がオリンピックでの試合で負傷するのは、選手への投資を考えれば割に合わない」というのが本音だ。

大リーグの一流の選手たちが各国代表としてオリンピックに参加し、野球競技に注目が集まったとしても、金銭的な利益は国際オリンピック委員会(IOC)にもたらされ、IOCが国際競技連盟に配分する補助金の原資となるだけである。これでは、機構や球団経営陣の目には選手を参加させ、公式戦を中断する見返りが乏しく映るのも当然と言えよう。

何より、米国では20歳代以下の世代がオリンピックに興味を持つ割合が他の世代よりも低く、「五輪ファン」は高齢化しつつあるから、球界にとっては若年層の野球離れそのものを食い止める活動の優先度が高くなる。

こうした機構や経営陣の態度は身勝手と思われるかもしれない。だが、その身勝手さのために、球界が「ペテン」や「ぼったくり」と金権的な体質が批判されたIOCと一線を画しているのも事実である。

機構などが示すオリンピックへの冷淡な態度は、決して嘆かわしい話ではないのだ。
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[1]鈴村裕輔, メジャーが五輪に冷淡なこれだけの理由. 日刊ゲンダイ, 2021年6月29日号27面.

<Executive Summary>
Why the MLB Does not Show an Interest in the Olympics? (Yusuke Suzumura)

My article titled "Why the MLB Does not Show an Interest in the Olympics?" was run at The Nikkan Gendai on 28th June 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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