「ジョージ・フロイド氏の死」が示す米国における「人種差別問題」の根深さ
ミネアポリスの警察官によるジョージ・フロイドさんの暴行死を受けて、米国の各地で起きた抗議運動は現在も続いています[1]。
今回の運動がフロイドさんの事件を直接の契機としていることは明らかです。
それとともに、アメリカ合衆国の建国以来続く「黒人差別」の問題や、アフリカ系アメリカ人として輿望を担って大統領に就任したバラク・オバマ氏が問題を解決できなかったことなどが複合的な要因となっていることも見逃せません。
あるいは、ヒスパニック系の台頭により人口の点でアフリカ系アメリカ人の占める割合が低下していること[2],[3]なども、少なからぬ意味を持っていると言えるでしょう。
一方、19世紀末から20世紀前半にかけての中国や日本からの移民の制限の問題などを参照するまでもなく、米国における人種差別の問題が必ずしも「黒人差別」だけにとどまらず、ヒスパニック系やアジア系の人々も対象となることは注意が必要です。
しかも、このような人種差別が日常生活に留まらず、様々な分野に及んでいます。
例えば、スポーツの分野でも米国で最も人気を博しているプロ・アメリカンフットボール・リーグNFLにおいて、全32チームの中から攻撃時の要となるクォーターバックを務めるアフリカ系アメリカ人の選手を見付けることは決して容易ではありません。
また、交響管弦楽やバレエなどの職業団体に目を向けても、やはりアフリカ系アメリカ人の姿を確認するのは難しいものです。
さらに、映画『天使にラブ・ソングを…』(原題:Sister Act、1992年)において、主人公デロリス(ウーピー・ゴールドバーグ)が身を隠した聖キャサリン修道院の修道女の中にアフリカ系アメリカ人がいなかったことなどは、たとえ娯楽映画であるとしても、米国における社会の階層化や非連続性の一側面を伝えているといえるでしょう。
もちろん、これらの事例は様々な出来事の中のごく一部に過ぎませんから、実際の米国社会の様子を概括するには不十分です。
それでも、任意に選びだされたわずかな例においても、ある種の「黒人差別」を認めることが出来るという点に、問題の根深さの一端が示されているということは出来るのです。
[1]黒人暴行死 米で追悼式. 日本経済新聞, 2020年6月5日夕刊1面.
[2]米融合 ヒスパニックがカギ. 日本経済新聞, 2010年9月22日朝刊6面.
[3]U.S. Hispanic population reached new high in 2018, but growth has slowed. Pew Research Center, 8th July 2019, https://www.pewresearch.org/fact-tank/2019/07/08/u-s-hispanic-population-reached-new-high-in-2018-but-growth-has-slowed/ (accessed on 5th June 2020).
<Executive Summary>
The Death of Mr. George Floyd Might Show an Aspect of a Deep-Rooted Segregation Problem in the USA (Yusuke Suzumura)
After the death of Mr. George Floyd of 25th May 2020, the protest movement occures in the USA. It might show an apspect of a deep-rooted segregation problem in the USA since its foundation in 1776.