【書評】山崎夏生『全球入魂! プロ野球審判の真実』(北海道新聞社、2020年)

5月13日(水)、山崎夏生さんの新著『全球入魂! プロ野球審判の真実』(北海道新聞社、2020年)が刊行されました。

本書は、1982年から2010年まで29年にわたってプロ野球パシフィック・リーグの審判員を務め、2011年から2018年まで日本野球機構の審判技術委員として後進の育成に当たった著者が、現場での経験や、2014年以来雑誌や新聞などに寄稿した随筆等を基に、野球における審判の地位と価値、現在の野球界が抱える構造的な問題への提言、さらには競技の枠を超えたスポーツにおける審判の尊厳の追求がなされています。

著者の野球への愛情と審判員の権威の向上への強い意志は、前著『プロ野球審判 ジャッジの舞台裏』(北海道新聞社、2012年)からも十分に窺われるところです。

その様な著者だからこそ、野球界の弊風を指摘しても、「ここが足りない」、「そこが駄目」といった欠点を示すだけでなく、「「伝統」は上書きをしなければかび臭くなるばかり」(本書、282頁)と、具体的な解決策を提示することが出来るといえます。

例えば、「選手たちの高額の年俸は球団が媒介しているだけで、その原資を供出しているのはファンそのもの(中略)その存在と彼らへの感謝をないがしろにすれば、いつかは当然のしっぺ返しを食らうものです」(本書、246頁)と選手や球団などの「方向を見誤ったファンサービス」(同、281頁)に警鐘を鳴らすとともに、「プレーの楽しさを知る以前の子供」に「勝利のために補欠に甘んじる」といった「勝利至上主義」を強要する、アマチュア球界に根強い風潮(同、253-67頁)に対しては、ファンの視点に立った対策やあらゆるスポーツの根底にあるフェアプレーの精神の重視などが挙げられています(同、248、260頁)。

もちろん、こうした態度が「ずいぶん甘い考え」(本書、260頁)であることは、筆者自身も自覚しています。しかし、37年にわたって球史に名を遺す者から期待に応えられずわずかな期間で球界を去った未完の大器まで多くの選手を審判員として眺めてきた筆者は、「過去にスーパースターと呼ばれた選手は卓越したプレーのみならず、高い人間性も評価されている」(同)とし、表面的な数字や結果だけが選手の評価の基準ではないとします。

これは、野球という競技を行う者も観戦する者も人間であり、人間的な成長なしに選手として大成することはないという点を明快に示していると言えます。

それとともに、アマチュア球界における「勝利至上主義」の弊害が一人ひとりの選手だけでなく審判員に対する野次や非難にも懸念を示すのは、本書の大きな特徴です。

例えば、全日本野球協会の公認審判員が直面する審判員不足と高齢化の一因に「審判への非難や批判」(本書、208頁)を挙げていることは、近年、小学校の野球の試合などで判定を巡り保護者から罵倒されたり暴行されるため、審判員の登録者が減少しているといいう米国の事例を彷彿させるものです。

また、規則の誤った理解によりプロ野球の審判員を「石ころ」と連呼した解説者と実況中継者への苦言(本書、71-72頁)も、球界関係者の審判員への敬意の不足を示す象徴的な場面です。

このように、審判員の視点からプロ野球が目指すべき道とアマチュア野球のあるべき姿を模索しつつ、章間に置かれたコラムで両親への愛や審判員時代の思い出が率直に綴られた『全球入魂! プロ野球審判の真実』は、著者の真摯さと人間味豊かな気質が濃縮された一冊と言えるでしょう。

<Executive Summary>
Book Review: Natsuo Yamazaki's "The Truth of a Professional Baseball Umpire" (Yusuke Suzumura)

Mr. Natsuo Yamazaki, a Former Umpire of the Japan Professional Baseball, published a book titled The Truth of a Professional Baseball Umpire from The Hokkaido Shimbun Press on 13th May 2020.

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