岸田文雄首相の第212回国会における所信表明演説の持つ意味は何か

昨日、衆参両院本会議において、岸田文雄首相が第212回国会における所信表明演説を行いました[1]。

所信表明演説であれ施政方針演説であれ、事実上形式的なものであり、各省庁の要望を網羅した内容になりますし、取り上げる話題もガソリンの価格から憲法改正問題まで多岐にわたるのは周知の通りです。

そのため、今回の所信表明演説に対して「空々漠々とした文字の羅列はもう結構だ」[2]と批判することは、むしろ批判することそのものを目的としているかのようであり、必ずしも前向きな意見とは言えないかも知れません。

むしろ、われわれは、今回岸田首相が演説の中で故事や成句の引用を行わなかった点に注意を向ける必要があるでしょう。

安倍晋三元首相をはじめ、歴代の首相はしばしば国内外の故事を引用しながら施政方針演説や所信表明演説を行います。そして、しばしば引用の方法が恣意的であったり、対象の理解の内容が不適切であることは、われわれのよく知るところです。

これは、一面において演説の原稿を執筆する側近や補佐官などの古典に対する知識の不足に由来するものであり、他方では演説の内容に風格を与えるために曲解ともいうべき理解を行いながら、そのような内容の原稿を読み上げる内閣総理大臣自身の迂闊さを示していると言えます。

一方、今回岸田首相が故事成語などの引用を行わなかったのは、そうした必ずしも妥当ではない引用を恥じたためか、あるいは訴えるべき話題が多く、何らかの引用を行うほどのゆとりがないことを推察させます。

実際、10月22日(日)に行われた衆参両院の2件の補欠選挙で自民党は1勝1敗となり、「選挙の顔」としての岸田首相の存在に疑問が呈され始めています。

その様な中で、有権者の歓心を買うために日々の生活に密着した物価高騰から、保守層に訴求しうる話題まで、様々な項目を列挙すれば、自ずから故事の引用などを行うゆとりはなくなります。

従って、今回の所信表明演説は、岸田首相や側近、あるいは自民党幹部などの関係者が、あえて選挙対策の一環として行われた可能性が考えられます。

その意味で、昨日は、岸田首相を取り巻く状況が必ずしも好ましいものではないことを伝えており、それだけに今後の岸田首相の選挙に向けた取り組みが注目されるところです。

[1]第二百十二回国会における岸田内閣総理大臣所信表明演説. 首相官邸, 2023年10月23日, https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/1023shoshinhyomei.html (2023年10月24日閲覧).
[2]天声人語. 朝日新聞, 2023年10月24日朝刊1面.

<Executive Summary>
What Is a Meaning of Prime Minister Fumio Kishida's Policy Speech for the 212th Diet? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida made the Policy Speech for the 212th Diet on 20th October 2023. On this occasion, we examine a meaning of this speech.

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