「EU離脱」は「英国の中堅国化」の第一歩となるか

現地時間の本日23時、英国が欧州連合(EU)から脱退します[1]。

1952年に前身の欧州石炭鉄鋼共同体が発足して以来、欧州経済共同体(EEC)、欧州共同体(EC)と一貫して規模を拡大させて現在の28か国体制となったEUから脱退国が生じるのは初めてです。それだけに、英国の脱退は欧州統合の歴史にとって岐路になるとともに、世界経済や国際秩序に与える影響も大きいと推察されます[1]。

ところで、本欄はボリス・ジョンソン首相の前任であるテリーザ・メイ氏が「グローバル・ブリテン」を掲げたことについて、英国が1960年代にスエズ以東を放棄した政策を改め、インド洋から太平洋へと再び進出する構想であり、EUからの離脱によって大幅に低下すると予想される英国の国力を維持するための方策でることを指摘しています[2]。

その一方で、ジョンソン首相がEUからの脱退について強硬な姿勢を示したことは、かえって残留派を勢い付かせ、さらに「EU残留」を待望する世論を高めることで、世論に迎合するという自らの特徴を発揮して残留の道を選ぶ可能性が皆無でないとしました[3],[4]。

結果から見れば、ジョンソン首相は当初からの主張の通りEUからの脱退を実現したのであり、その意味で2016年の国民投票以来、一貫した態度を示したと言えます。

これは、投票の結果を受けて首相を辞任したデヴィッド・キャメロン氏、当初は残留の意向を示していたものの政権を担当してからは民意に従うとして脱退への取り組みを推進したメイ氏と共通する、直近に示された民意に従う姿勢の表れの一端とすることが出来ます。

従って、ジョンソン首相は一見すると奇矯とも称されうる言動に注目が集まりがちながら、実際には多数派の意向に従うという意味での民意尊重の方針に基づいて行動したと考えられます。

しかし、「グローバル・ブリテン」を標榜したメイ氏に比べ、ジョンソン首相はEUからの脱退を推進したものの、脱退後の英国の進むべき進路について明快な方針を示しきれていないように思われます。

また、EU側も英国を失うことを危機と捉えるよりは一種のEUの純化と見なしているかのようです。

確かに、EUの単一通貨ユーロや欧州の国家間で国境検査なしで国境を越えることを許可するシェンゲン協定に参加しない英国が、EUにとって最小限の負担によって最大限の利益を得ようとする国と見られても不思議ではありません。

その意味で、英国の脱退は、加盟国が同じ枠組みの下で共存共栄を図ろうとするEUにとって悔やまれはするものの、より強い一体感を醸成するために有効であると言えるでしょう。

しかしながら、1933年に日本が国際連盟から脱退しことで、日本が国際社会からの孤立を加速させ、連盟が信認を低下させた故事を参照するまでもなく、EUから脱退する英国についても、どれほど米国との関係の強化などを訴えたとしても国際社会での地位の低下を避けることは不可避ですし、EUにとっても組織の統制力の弛緩が生じかねないところです。

今回のEUからの脱退によって、脱退推進派の人々は愛国歌Rule Britanniaの歌詞にあるように「ブリトン人は決して隷属しない」という気概を示したかも知れません。

それでも、第一次世界大戦によって覇権国の座を失い、第二次世界大戦は主要国の一国となった英国に世界の海を支配する力のないことは明らかです。

それだけに、将来の像を明瞭に描き出すことが出来なければ、英国にとってEUからの脱退は中堅国化への第一歩とならざるを得ないのです。

[1]英国 31日EU離脱. 朝日新聞, 2020年1月31日朝刊1面.
[2]鈴村裕輔, 「グローバル・ブリテン」政策が加速させる英国の「合意なき離脱」. 2019年1月31日, https://researchmap.jp/jog2swg5l-18602/ (2020年1月31日閲覧).
[3]鈴村裕輔, ジョンソン首相の誕生は「英国のEU残留」の可能性を高める. 2019年7月25日, https://researchmap.jp/jo7zrgj1b-18602/ (2020年1月31日閲覧).
[4]鈴村裕輔, ボリス・ジョンソン首相の強硬策が高める「ブレグジットの回避」の可能性. 2019年9月5日, https://researchmap.jp/joea5vf1j-18602/ (2020年1月31日閲覧).

<Executive Summary>
Is the Realisation of Brexit the First Step for the United Kingdom to Be a Middle Power? (Yusuke Suzumura)

The United Kingdom leaves the European Union on 31st January 2020. It might be the first step for the UK to shift from the great power to the middle power, since after Brexit the UK will lose its strong international influence.

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