当局に求められる「イベントの中止や延期」問題における「損失補填」への対応

昨日、新型コロナウイルスの感染の防止を目的として、安倍晋三首相が今後2週間の全国的なスポーツや文化関連の催事の中止や延期、規模縮小を要請したこと[1]で、全国各地で催事の中止や延期、企業における出社の禁止などが相次いでいます[2]。

確かに、感染の経路が特定されず、治療薬も開発されていない現状では、さらなる感染の拡大を抑止するために万全を期すことは当然です。

その一方で、安倍首相の要請の前日に公表された「新型コロナウイルス感染症対策の基本方針」において「イベント等の開催について、現時点で全国一律の自粛要請を行うものではない」[3]とされたにもかかわらず、翌日に
「多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等」の中止や延期、規模縮小が要請されたことは、たとえ「今後の感染の広がりや重症度を見ながら適宜見直す」[4]という方針があるにせよ、朝令暮改の感は拭えません。

また、安倍首相による要請では「多数の方が集まるような全国的なスポーツ、文化イベント等」とされているものの、具体的にどの程度の規模であれば「多数」に該当するのかが明示されていないこと、さらに「全国的」という場合に何が「全国的」が例示されていないことも問題です。

何故なら、基準が明示されない要請に対しては、人々の対応はより警戒の度合いを強めたものになるか、事態を楽観視して無警戒になるかのいずれかになりやすいと推察されるからです。

これに加えて看過できないのが、法的根拠の内容ない要請に従い、自発的に行事などを自粛した結果生じるキャンセル料や損害の問題です。

例えば、ある有料の演奏会が中止となった場合、主催者は入場券の購入者への払い戻しを行うだけでなく、出演者への出演料や運営要員の人件費、楽器の借用料、あるいは会場への使用料の支払いなどにも対応しなければなりません。

財政的に余裕がある団体や保険をかけている組織などであればこうした場合にも金銭的な負担を軽減することが出来るでしょう。

しかし、そのような備えがない主催者であれば、予期せぬ要請により予定外の損失を被ることになりますし、本来得られるはずの出演料や使用料が支払われない場合には出演者や関連する団体も経済的な損害を受けることになります。

そして、事情は他の催事においても大同小異なのです。

確かに、日頃から最悪の事態を念頭に置いて事業に取り組むことは、企業であれ個人であれ危機管理の基本と言えます。そして、そのような備えを怠った者を救済する必要はないかも知れません。

それでも、今回の要請に基づいて種々の催事が次々に中止ないし延期されている実情に鑑みれば、事態を楽観視することは出来ません。

何より、もし主催者が「中止にしてもチケットの払い戻しに対応できないから、決行」といった判断をするなら、要請の意味そのものがが問われかねないと言えるでしょう。

その意味でも、キャンセル料や損害についての補填問題は、当局による速やかに対応策が決められ、明示される必要があるのです。

[1]イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ. 厚生労働省, 2020年2月26日, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00002.html (2020年2月27日閲覧).
[2]経済活動 非常時モード. 日本経済新聞, 2020年2月27日朝刊1面.
[3]新型コロナウイルス感染症対策の基本方針. 新型コロナウイルス感染症対策本部. 2020年2月25日, https://www.cas.go.jp/jp/influenza/kihonhousin.pdf (2020年2月27日閲覧).
[4]イベントの開催に関する国民の皆様へのメッセージ. 厚生労働省, 2020年2月20日, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00002.html (2020年2月27日閲覧).

<Executive Summary>
What Shall the Japanese Government Authorities Take Measures to the Loss Compensation Issues (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Shinzo Abe requested that to postpone or suspend large-scaled events to prevent an outbreak of the novel (new) coronavirus (COVID-19) on 26th February 2020. It is very important decision and at the same time the Japanese Government authorities shall take adequate measures to the loss compensation issues. Because if there are no measures, no one can respond appropriately.

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