岸田文雄首相の「年内の衆院解散断念」発言はいかなる意味を持つか

昨日、岸田文雄首相は首相官邸で記者団の質問に応え、当面は衆議院を解散しない意向を示しました[1]。

確かに、各種の世論調査で政権への支持率が低迷する状況の中で、総選挙を行っても自民党が議席を減らすことが予想されています。

そのため、単独過半数を維持できたとしても党内から岸田首相の退陣を求める声が上がりかねないとすれば、来年9月の総裁選挙での再選を目指す岸田首相にとっては望ましくない選択肢となります。

一方、もし総選挙を行わないとしても、岸田首相が自民党総裁に再選されるためには、政権の支持率の回復が必須です。

世界的な資源高を受けたガソリン価格の高騰を防ぐための補助金の給付やいわゆる旧統一教会問題、あるいは所得税の減税などで相次いで主体的な取り組みを発表したり、本来の政治的な信条からはややそれるような憲法改正問題への積極的な姿勢を示したりすることは、いずれも政権の支持率を回復し、総裁選での勝利を目指す、いわば有権者の歓心を買うための手段であることが推察されます。

それにもかかわらず政権の支持率が向上せず、低落を続けているのは何故でしょうか。

有権者が、一連の政策に秘められた意図を見抜き、あたかも私利私欲のために政策をもてあそぶかのような態度を懸念しているためと言えるでしょう。

例えば、一度は国防費の増額とそれに伴う増税について、「今を生きる我々が、将来世代への責任として対応」[2]することを明言した岸田首相がその年のうちに所得税の減税を進めようとする姿は、人々の信頼を低下させることはあっても高めることは難しいところです。

それだけに、今後の政権運営のあり方いかんでは、総選挙を断行できないだけでなく、総裁選への出馬を辞退することになりかねません。

こうした点からも、今後の展開が一層注目されるところです。

[1]首相、年内の衆院解散断念. 日本経済新聞, 2023年11月10日朝刊3面.
[2]第二百十一回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説. 首相官邸, 2023年1月23日, https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2023/0123shiseihoshin.html (2023年11月10日閲覧).

<Executive Summary>
Will Prime Minister Fumio Kishida Dissolve the House of Representatives? (Yusuke Suzumura)

Prime Minister Fumio Kishida said that they would not dissolve the House of Representatives by the end of this year On this occasion we examine the meaning of this comment

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?