「検察官定年延長問題」の根幹をなすのはいかなる問題か

検察官の定年を現行の63歳から65歳に引き上げるとともに、内閣の判断で検察幹部の「役職定年」を延長できるように検察庁法を変更しようとする政府の動きに対し、国民から反対の声が上がっています[1]。

検察官の定年退官は、検察庁法第22条に「検事総長は、年齢が六十五年に達した時に、その他の検察官は年齢が六十三年に達した時に退官する。」[2]と規定されています。

また、同法第32条の2においては、「この法律第十五条、第十八条乃至第二十条及び第二十二条乃至第二十五条の規定は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)附則第十三条の規定により、検察官の職務と責任の特殊性に基いて、同法の特例を定めたものとする。」[3]と定められています。

そのため、これまで、「その退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。」[4]という国家公務員法第81条の3第1項の規定は、検察官には適用されていません。

一方、今回の「検察官の定年延長問題」で注目されている国家公務員法の解釈については、1981年4月28日の衆議院内閣委員会での質疑が広く知られています。

すなわち、民社党の神田厚議員と政府委員として答弁した人事院の斧誠之助任用局長との間で、以下のようなやり取りがありました[5]。

神田厚
定年制の導入は当然指定職にある職員にも適用されることになるのかどうか。たとえば一般職にありましては検事総長その他の検察官、さらには教育公務員におきましては国立大学九十三大学の教員の中から何名か出ているわけでありますが、これらについてはどういうふうにお考えになりますか。
斧誠之助
検察官と大学教官につきましては、現在すでに定年が定められております。今回の法案では、別に法律で定められておる者を除き、こういうことになっておりますので、今回の定年制は適用されないことになっております。

こうした過去の答弁に対して、森雅子法務大臣は、定年延長を巡る法解釈変更の決裁を口頭で行ったことを明らかにしています[6]。

しかし、「定年延長について納得のできる説明をしてほしい」という検察関係者の疑問に法務省高官が「業務上の必要があって延長した」と述べるに止めるなど[7]、政府の対応は明快さを欠きます。

しばしば「政権寄り」とされる読売新聞さえ「政府、苦肉の法解釈変更」、「官邸の意向」と報じていること[7]は、今回の問題が早期の変更を目指す政府側の意向[8]に反し、長期化する可能性を推察させます。

何より、従来とは異なる方法で法律の解釈が変更されたことが事後的に報告された、という難点を問題の根幹にかかわります。

従って、このような難点を克服しない限り、政権側の望む形での「検察官の定年延長問題」の解決は容易ではないでしょう。

[1]検察庁法改正に抗議、ツイッターで200万超 著名人も. 朝日新聞DIGITAL, 2020年5月10日, https://www.asahi.com/articles/ASN5B34BYN5BUTIL005.html (2020年5月10日).
[2]検察庁法. 第22条.
[3]同, 第32条の2.
[4]国家公務員法, 第81条の3第1項.
[5]第94回国会衆議院内閣委員会. 第10号, 1981年4月28日, 24頁.
[6]解釈の口頭決裁 規則基づき正当. 読売新聞, 2020年2月25日夕刊3面.
[7]検事長定年延長が波紋. 読売新聞, 2020年2月21日朝刊3面.
[8]検察の定年延長、与党が審議強行. 朝日新聞, 2020年5月9日朝刊1面.

<Executive Summary>
What Is a Bottleneck of The Public Prosecutor's Office Act and the "Mandatory Retirement Age Issue"? (Yusuke Suzumura)

The Abe Administration aims to revise The Public Prosecutor's Office Act in which the mandatory retirement age is set prosecutors at 63 and that for the prosecutor-general, Japan's top prosecutor, at 65. It is not easy for them to realise their demand, since even conservative and pro-government newspaper The Yomiuri Shimbun points out that it is a kind of the "last resort".

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